何も理解していない私は、兄に腕を引っ張られて再び席に座らされる。
そして兄は自分のバックからハンカチを取り出すと、私の涙を拭った。

兄は私に優しく語りかける・・・・。

「こんな風に喚いてみろよ。こんな風に『自分の考えは間違っていない』ってみんなの前で叫んでみろよ。『これが私の生き方なんだ』って訴えてみろよ。そうすれば、みんな茜の生き方に納得するからさ。そうすれば、葵も振り返ってくれるからさ」

逆に言いたいことを言われた私は、首を傾げた。

だって意味が分からないから。
私を馬鹿にしていた兄が、急に手のひら返すから。

理解が出来ない。

「茜がそう思うなら、居れはそれでいいと思う。自分が『悪者』だと思うなら、それでいい。ただ決めたことは絶対に貫き通せ。どんな『辛いこと』や『自分を責めたいとき』があっても、その気持ちは忘れるな。絶対に自分の気持ちからは逃げるな」

言葉通り､『逃げるな』と言われているような兄の真剣な眼差し。
私の両肩を掴むと力強く兄はそう言った。

同時に私はその優しい兄の言葉に、また涙が溢れ出す。

「なんで？死ねって言ったじゃん」

涙声で私がそう言うと、再び兄は私を馬鹿にするような笑顔で笑った。

「あぁ・・・。まさか本気で捉えていたのか？嘘に決まってるだろバカ野郎。大切で可愛い妹に『死ね』なんて本気で言えるわけないだろ？昔から何でも信じてしまう癖、相変わらずだな」

私は兄の言葉を理解するのに、時間がかかった。
そして理解したら心の底から溢れ出す苛立ちが、私の中で暴れだした。

「お兄ちゃん！もう馬鹿野郎！ふざけんな！」

「はいはい。ごめんごめん」

「ちゃんと謝って！」

「えー、めんどくさいからやだよ」

兄は私の肩から手を離すと、再びドリンクを口に運んだ。
そしてまた私に優しい笑顔を見せてくれる。

「はい、次は樹々の番。このバカな親友に言いたいことを言いなさい」

ずっと不安げな表情で私を見守っている樹々だったけど、兄の声に驚いた表情を見せる。
そして、何かを心に決めたようなやる気に満ちた表情に樹々は変わる。

「えっと、じゃあ遠慮なく・・・・・」

同時に樹々は私の頬を殴ってきた。
驚いたのが一番だけど、何より痛かった。

樹々は本気で私を殴ってきた。

って・・・・はあ？