客席や舞台が再び暗くなる。

そしてスポットライトが舞台に再び照らされると、まず現れたのは司会の女性だった。
丁寧に一つ一つ進行をしてくれる。

「勇気をもらえる素敵な演奏でしたね。さて次に演奏していただきますのは、有名なピアニストの登場です。父親は有名な作曲家である柴田鉄也(シバタ テツヤ)、そして母親はピアニストの柴田藤子と、音楽の才能に溢れた豪快な少年です。幼い頃からピアノを始め、お母さんから伝授した旋律を奏でてくれます。それで御聴きしたいとおもいます。作曲は柴田鉄也、演奏は柴田アランで。『我武者羅』です」

スポットライトが消えると同時に、司会の女性も暗闇に消える。

そして再び舞台の明かりが保たれると、黒いグランドピアノの横で大きな体の少年が客席に向かって一礼していた。

小麦色の肌に、藍色のスーツの少年だった。
彼の付いた異名は、『天才不良ピアニスト』。

性格も不良らしく荒く、何より彼の演奏がその異名を物語っている。
喧嘩をするように荒々しく、魂隠った演奏を奏でる天才だ。

そんな彼の名前は柴田アラン。
常に喧嘩腰の性格は世間から恐れられているが、実は礼儀正しい。

両親に教えられたのか、演奏前はいつも観客に頭を下げている。
昔から『ありがとう』と『ごめんなさい』は必ず欠かさない奴だったし。

それと彼、顔立ちはいい。

だからなのか、実は柴田アランは女の人から凄い人気があるのだ。
特に大学生などの年上の年層から。

理由としてはきっと弟に見えるからだろう。
凛々しい彼だが、世間という言葉を全く知らない。

まるで放っておけない弟と重ねて見てしまう女性ファンが多いのだろう。
ああ見えて愛藍、凄く気は弱かったし。

機械音痴で方向音痴だったし。
可愛らしい一面も何度かあったし。

そんな有名なピアニストの柴田アランの事を、どうして私がよく知っているのか。

それは私の七年前の親友と同一人物だから。
毎日のように遊んで、共に時間を過ごした仲だから。当時は本当にお互いを信頼しあっていた。

でもあの事件から私達の関係はぶち壊されてしまった。
結果的に彼は私を見る度に攻撃するようになってしまった。

だからあの頃の愛藍や葵との日々を思い出すと、私は胸が締め付けられるように苦しくなる。
逃げ出したくなる・・・・・。