店員はメニューを復唱すると、私達の席から離れた。
そして元気な声で厨房にオーダーを知らせると、自分はオーダーのドリンクを作ってくれる。

何故だか分からないけど、その店員を見ていたら橙磨さんの姿を思い出した。
すぐにドリンクが仕上がり、冷蔵庫で冷したジョッキに入って持ってきてくれた。
私は兄と同じジンジャーエールだ。

そういえばお兄ちゃん、いつも一緒に外食するときは私に何も聞かずに、ジンジャーエールを頼んでくれる。
理由は分からないけど、多分贅沢をさせてくれているのだろう。

幼い時、父に『ジュース飲むか?』って言われても、私は決まって『いらない』と答えていたし。

それに、父と兄は私自身がジンジャーエールが好きなことを知っているし。

「お酒、飲まないですか?」

高校生にお酒を進めながら、兄の持つジョッキには私と同じジンジャーエールが注がれていた。
兄は樹々の質問に少し残念そうな笑顔で答える。

「制服着た高校生連れて飲むのもちょっとマズイからな」

兄はそう言うと勢いよくドリンクを飲み始めた。
大好きなビールじゃないけど、とても美味しそうに兄はジンジャーエールを飲んでいる。

仕事から帰ってくる兄は、いつもすぐに家の冷蔵庫から缶ビールを取り出してその場で飲み干す。

そして今日もその予定だったのだろう。
でも家に帰ったら妹が首吊っているから、それどころじゃ無かった。

ようやく得れた大人しか分からない感覚を、兄は幸せそうに実感している。

兄はよく喋る。
私はいつも静かにごはんを食べるけど、それを許さないように兄はいつも私に絡んでくる。

だから兄の前に座る樹々がまずターゲットとなった。

「樹々って見た目に反して超真面目ちゃんだよな。そんなんじゃ男にモテないよ。」

ウーロン茶を飲んでいた樹々は勢いよくむせた。
いきなりの難題に驚いたみたいだ。

「男はその、はい・・・・・」

曖昧なで濁す樹々を見た兄は笑った。
それも不気味な笑みで。

「あれ?もしかして樹々って、年齢イコール彼氏いない歴?」

直後、真っ赤な表情に変わる樹々は、うつ向きながら小さく頷いた。
『これ以上そんな小馬鹿にするような目で見ないで』と、樹々から心の声が聞こえてくる。

でも兄は私を見て、樹々を励ます。

「大丈夫大丈夫!茜も一緒だから。な?男なんて興味ないもんな?」

兄は隣に座る私の肩を抱くと、何度も私の頭を軽く叩いた。
樹々を励まそうとする兄の行き過ぎた行動に私は反論したかったけど、私の目は死んでた。

浮かない表情で目の前のドリンクが入ったジョッキを見つめていた。

でもそんな私を兄は許してくれない・・・・。