この親子の会話を聞く限りじゃ、とうやら俺がここにいる意味はもうないみたいだ。
茜も意識を取り戻したみたいだし、大人しく早く家に帰ろう。

後は茜の温かい家族に任せよう。

俺は家の玄関の扉を開けて、茜の家の敷地内から出る。
何も言わずにこの家を出る。

でもその時、見覚えのある女の子とすれ違った。
冬場だというのに、額は汗まみれで息も切らしている茶髪の派手な女の子。

と言うかこの子、さっきまで制服で走っていた子だ。
なんで走っていたのかは理解できないけど。

「えっと・・・だれ?」

その彼女の言葉に、俺は素直に自分の名前と茜との関係をを言ってみた。多
分この子、茜の友達なんだろうし。

「えっと、江島葵。茜の元親友で、茜をいじめていたやつ」

案の定目の前の彼女の表情が歪んだ。
まあでも、いきなり自分の親友をいじめていた奴が目の前に現れたら、そりゃ腹が立つか。

『コイツのせいで親友が酷い目に遭わされた』って思うはずだ。
彼女も言葉を返す。

「そう。アンタが葵って言うんだ。よく覚えておく」

そう小さく答えた彼女は、俺の横を通り過ぎる。

このまま彼女は茜の家に入っていくのだろうか?
だとしたら、一つ伝えないといけないことがある。

「もう家族が帰っているみたいだから、せめてインターホンくらい鳴らせよ。じゃないと俺みたいに『不審者扱い』されるから」

直後、俺の言葉に彼女は苛立ちを見せる。

「うるさい。言われなくても常識くらい分かっているから。最初からそのつもりだし」

そうですか。

でも彼女を見て、何故だか俺はホッとした。

そして改めて、『家に帰ろう』と心に決めた。
やるべきことはまだまだあるけど、『今はこれでいい』って言うか。

俺みたいな『元親友』が茜を励ませる言葉なんてないだろうし。
それなら『現親友』のこの子が励ました方が茜も元気が出るだろうし。

そんな『現親友』から聞こえて来る質問に、俺の動きかけた足が止まる。

「ねぇ、今のアンタは茜の事をどう思っているの?」

茜のことか、そうだな・・・・・。