朱羽さんの驚いた声に、俺は振り返る。

するとそこには朱羽さんの膝上に頭を乗せて、半開きの目で周囲を確認する茜の姿があった。
『ここはどこ?』って言うような茜の表情・・・・。

その茜の姿を見た俺は、茜の意識があるのだと理解した。

同時に朱羽さんの怒りの声が響き渡る。

「この大馬鹿野郎!なんでこんなことするんだよ!本当に馬鹿!何でいつも一人で頑張ろうとするかな?もう充分頑張っていたじゃねえか!『頼っていい』って、いつも言っているじゃねえかよ!」

そう怒って、朱羽さんは茜の頬を一つ叩いた。
恐そうな、愛のあるお兄ちゃんの表情で・・・・。

茜は相変わらずだった。
まるで『どうして自分が生きているの?』と言うような表情を浮かべている。

多分お兄さんの言葉も聞いていなかっただろう。

その時、再び玄関の扉が開く。
玄関付近に立っていた俺は、玄関の扉を開けた人と目が合った。

とても大きな体格の持ち主で、白髪の目立つ男の人。

「ただいまー!ってあれ?お前は確か」

七年前と変わらない茜のお父さんの姿に、俺はすぐに焦った・・。

「あっ、すいません・・・・。お久しぶり、です・・・。江島葵です・・・・」

申し訳ない表情浮かべる俺の顔を見た茜の父は、すぐに怒った表情に変わる・・・・・。

「あー思い出した!テメーは確か茜のいじめていたなんとか葵!この野郎!俺の可愛い茜を酷い目に合わせやがって!」

「すいません!本当にごめんなさい・・・・」

慌てて俺は何度も頭を下げたけど、もちろん茜のお父さんの表情は変わらない。
絶対に許さないとでも言うように、俺を怖い顔で睨み付ける。

そんな中、朱羽さんはお父さんに向かって声を張る。

「クソジジイ黙ってろ!早くこっちに来い!」

茜のお父さんは、息子の言葉で更に表情が険しくなる。
そしてさっき俺に見せた怒った表情を浮かべて、息子の喧嘩を買った。

急いで茜のお父さんは朱羽さんの元へ向かう。

「誰かがクソジジイだ!お父様に向かってけしからん・・・・って茜?」

「この子、自殺しようとしていたみたい。それを葵くんが助けたみたい」

「あのクソガキが?」

「クソガキ言うな」

どうやら茜のお父さんも茜の現状に理解したみたいだ。

俺はずっと玄関に居るから、奥の部屋に行ってしまった茜のお父さんの表情は分からない。

でも真っ青な表情を浮かべていることは想像できた。
お父さんは娘の茜に声を掛ける。

「おい、茜しっかりしろ!俺が誰だかわかるか?偉大なお前のお父様だぞ!」

「偉大は余計だ。娘をほったらかして海外へ行く父のどこが偉大なんだよ。育児放棄しやがって。母さんに言いつけるぞ」

「いや、それはマジ勘弁。アイツ、記憶ないくせに茜の話になると目の色変わるし」

・・・・・・・。