ルビコン

って、俺は馬鹿か?
何のためにここに来たんだ。

ここまで来て弱気になるとか、もうただのアホだろ。

何のために俺は愛藍に説教された?
ここで踏み止まったら、愛藍の想いはなんだった?

今回もそうだけど、アイツはいつも俺のことを心配してくれた。
茜を陥れてしまった俺の味方になってくれた。

愛藍がいなかったら、今の俺は存在しない・・・・。

その愛藍に、今まで助けてくれた『ありがとうの気持ち』を俺は絶対に仇で返したくない。

江島葵は最低な奴だけど、人の心は持ちたい。

俺だって、誰かのためになりたい。

「茜!どこ?どこだ!」

俺は思いきって桑原家の中に入る。
部屋の明かりを付けずに、リビングや廊下は暗闇に包まれていた。

それにしても本当に誰かいるのだろうか。

でもこの家で誰かが暴れている。
その誰かとは茜なのかもしれない。

だったら助けないと。
茜を助けないと。

そのために俺はここに来たのだから。

昔のドラマで聞いた台詞がある。
『自分の事じゃなくて、誰かの為に行動したら恐怖って案外薄れる』って・・・・・。

・・・・・。

不思議だった。
確かにそう思ったら、体の力が抜けていく。

抵抗が無くなる。

『茜のために頑張ろう』と思う自分がいる。

奥の部屋から、再び大きな物音が聞こえた。
理由は知らないが、茜が暴れているのかもしれない。

俺はその音が聞こえるリビングに入ると、懐かしい感じに包まれた。
幼い頃よく訪れていた親友の家が、凄く久しぶりに思えた。

週に三回くらいはこの家に来ていたのに・・・・。

そのリビングを俺はさらに進む。
当時と全く変わっていない内装と、隣の部屋の扉。

確か茜は『お父さんの部屋』だと言っていた気がする。
海外出張が多い父に対して、茜はよく『土産という名のゴミを持ち帰ってくる』と呆れていたっけ。

今でもその土産は残っているのだろうか。

その父親の部屋の扉は空いていた。
初めて見る内装は茜が言っていた通り、海外出張で買ってきた土産と思われる置物が多かった。

まるでどこの集落の守り神だと思わされるような、不気味な置物。
他には特に何もない。

誰かが寝た跡が残る布団に、茜の父親の仕事机。

・・・・・・。

それと茜の姿があった。
苦しそうなな表情を浮かべて、茜はベルトで首を吊っていた。

って、・・・・・・は?