「わかってるよ!そんなの言われなくたってわかってるよ!俺が茜と仲良くなれたら、『みんな悩む必要なんてない』ってとっくの昔に気がついているよ!でももうとっくに手遅れなんだ。俺はもう、助からないんだ」

全部俺が悪いんだ。
校長に呼ばれたあの時も、茜を売ったのがすべての始まりだ。

俺があの時もっと茜の事を考えていたら、こんなくだらない事で悩む必要なんてなかった。
今頃も茜と愛藍と一緒に赤崎祭を回っていた。

時間は何があっても、戻すことは出来ない。
止まることもない。

茜と楽しかった日々を取り戻すのも同じで、絶対に無理なんだ。

だけど、その俺の意見に反論してくるのが柴田愛藍という俺の親友だ。
愛藍は昔から真っ直ぐな性格で、よくイタズラをして一緒に怒られていたけど、誰よりも俺達の事を考えてくれた。

本当は自分より親友を優先するいい性格なんだ。

「手遅れかどうかは茜と話し合ってから決めろ!実行してないくせに妄想で何もかも語ってんじゃねえぞコラ!テメーは口先だけの人間か?」

そしてこんな風に不器用ながら、俺と茜に怒っていた。
口は悪いけど、愛藍は心から信用できる親友だ。

「らしくねぇよ、バカ野郎。一回くらいみっともなく頑張ってみたらどうなんだよ。じゃないと、俺が茜に先に好きだと告白するぞ」

「・・・・えっちょ、マジ?」

「なんでそこだけ返事が早いんだよ。ってことは、やっぱりお前も茜の事をまだ諦めてなかったんだよな」

言われて気がついた。
俺は愛藍の言葉に無意識に反応していたって。

俺は茜の事が好きだ。
そして愛藍も茜が好き。

友達としてじゃなくて、多分『女』として。

その茜を俺と愛藍はいつも取り合っていた。
どちらが先に告白が出来るか競っていた。

結局お互い告白は出来なかったけど、それはそれでいい思い出だったりする。

でも、それを『いい思い出』で終わらせていてもいいのだろか。
再び茜と会えるチャンスが目の前にぶら下がっているのに、無視してもいいのだろうか。

・・・・・。

よくねぇよな。
それで一生後悔するかもしれないのに、そんな所で弱気になってどうする?

俺にとって人生大逆転のチャンスなのに、黙ってみていてどうなる?

というか、行動していないのに『後悔』という言葉を使うって、なんかダサくない?
『アイツに告白出来なくて後悔した』とか、ダサすぎて絶対に言いたくない。

絶対に笑われる。

それに、そもそも『後悔』している時点で情けないと思うし。
後になって頑張っても意味ないことは、今の段階でも気がついているだろ。

愛藍はまた俺に向かって吠える。

「早く行け、バカ野郎。行ってキスの一つや二つくらいしてこい。そうすりゃ何もかも解決して、みんな幸せになれるんだからよ」

「キスって・・・・・」

でも、それくらいの気持ちの方がいいかも。
多少オーバーな思考の方が、失敗したときにダメージが少ない。

今は当たって砕けてもいいから、とにかく当たらないと。
でも俺一人では不安だ。
だから親友に確認する。

「愛藍、ヤバくなったらまた連絡していいか?」

「当たり前だろ。ってか早く行け。ヘタレ」

その言葉を聞いて俺は安心した。
これなら俺もようやく一歩踏み出すことが出来そうだ。

「ありがとう、愛藍。あと一言多い」

そう言って俺は電話を切った。
そして俺は慌てて玄関に向かうと、走りやすいスニーカーに切り替えると家を飛び出した。