そんな最中、突然俺の携帯電話が鳴った。
相手は俺の親友の柴田愛藍だった。

「愛藍だ。ちょっと話してくる」

そう言うと同時に俺は席を立つと部屋を出る。
同時に凄く嫌な予感がする。

明かりが消えて誰もいないリビングに俺は戻ると、携帯電話の応答のボタンを押す。
するとすぐにアイツの声が聞こえてきた。

「頼む!今から茜と話し合ってくれ」

同時にその言葉の意味がわからなかった。

「はい?どういう流れだよ?」

「あいつ、さっき黒沼に会った。黒沼にまたズタボロにされた」

俺の言葉を待つ暇もなく、愛藍は続けた。

「茜が危ない!マジで精神が追い込まれているみたいだし。それに、アイツの友達が黒沼と喧嘩した。いじめた俺らを悪く思わず、『自分のせいで関係が壊れてしまった』と思い込んでしまう茜だ。きっと、『自分のせいで友達が怒ったんだ』と思っているはずだ。だからこそ、お前が行って茜を助けてほしいんだ!」

愛藍の言葉を、俺は時間を掛けながら一つ一つ理解する。
そして、それに対する俺の考えを返した。

「愛藍が助けろよ」

『なんだ、そんなことで電話していたのかよ』って俺は思った。
他人事のように思った。

だって今の俺じゃどうしようも出来ないし。

一方の愛藍は怒鳴ってくる。

「おい!葵!」

耳が痛くなるほどの愛藍の怒った声だったが、俺は揺るがない。
冷静に言葉を返した。

「ごめん、切る。じゃあな」

耳から携帯電話を離し、俺は通話切断のボタンを押そうとする。
でもよく響く愛藍の言葉に、俺の指は無意識に止まった。

「お前の気持ちはよくわかっているつもりだ。でもそんな馬鹿みたいな気持ち、分かりたくもない。だってそれって、ただ自分に言い訳して逃げているだけだろ?そんなことして自分は偉くなったつもりかよ?自分の情けなさを克服しないで、お前どうするんだよ」

その愛藍の言葉は、俺の心臓に突き刺さった。

愛藍はまだ続ける・・・・・。

「茜はやったぞ。茜は逃げなかったぞ。自分の過去にも立ち向かって、親友の妹のいじめにも立ち向かった。絶対に逃げなかった!今日だって必死になって頑張っていた。必死にお前と仲良くする方法を考えていたんだ」

『茜は頑張っている。そう思ったら俺も出来そうな気もする』とは俺は思わない。
茜は出来たかもしれないけど、俺には出来ない。

そう、出来ないものは出来ないんだ!

「うるさい!」

上にいる母や花菜にも聞こえそうなほど、俺は声を張ってしまった。
でもそんなことはもうどうでもいい。

もう母のの言う通り、『情けないお兄ちゃん』だから仕方ない・・・・。