去年の夏に大怪我を負った。
練習中に生徒と激しくぶつかり、右膝靭帯を損傷。

以後右膝を庇うようにダンスを続けてきた。
お陰で別人のようにダンスのキレは落ちて、俺は大好きなダンスにも裏切られたと思って絶望した。

そんな俺に更なる追い撃ち。
医者からはそれ以上ダンスを続けると、『日常生活に支障が出る』と言われた。

二度と立つことが出来ないと言われた。
『手術をしない限りは、ダンスを続けることは難しい』と言われた。

手術をするお金なんてない。
だから、俺は夢を断つ決断を下した。

潤先生のような一流ダンサーになる夢を諦めることにした。

だからこその、昨日の俺の最後の晴れ舞台。
最後のダンスだから愛藍を誘ったのに、アイツってひどい奴だ。

俺のダンスを見ずに、隣の女をずっと見ていたし。
まじで許せねえし・・・・。

でもその女って、茜なんだよな・・・・。
最初は気づかなかったけど、愛藍の隣で泣いていた少女は間違いなく茜だった。

どうして茜がここにいるのか、最初は目を疑った。
『俺のために来てくれたのか?』と、一瞬だけそんなことを考えたけど、やっぱり違うみたいだ。

俺の後輩の小緑のお姉ちゃんは、かつて俺達と同じ小学校に通っていた同級生。
山村紗季(ヤマムラ サキ)だ。

ってか多分茜は知らないと思うけど、紗季って低学年からずっと飼育委員なんだよな。
隣クラスの飼育委員として、俺は紗季とはよく話していたし。

そこで俺は紗季と話すようになったし。

その紗季の友達が俺の桑原茜。
ってことは、きっと小緑と茜も友達なんだろう。

小緑と話をすると、茜を連想させる女の子がよく出てくるし。
二人は仲がいいのだろう。

それで茜が会場にいた。
友達の小緑の晴れ舞台を、姉の紗季と応援するため。

そして偶々俺を応援しに来てくれた愛藍と合流した。

結果があれだ。
何で茜が泣いたのかは、正直言って分からない。

後で会った愛藍も教えてくれなかったし。

まあでも泣いた理由は、多分『俺の顔を見たから』だと俺は思う。
久しぶりに再会したときもそうだったし・・・・・。