ルビコン

始まりは小学六年生の担任である烏羽(カラスバ)先生の一言だった。
茜が保健室登校になってしまって落ち込んでいた俺に、烏羽先生は声を掛けてくれた。

『今度知り合いがダンススクールを開くから、一緒に踊ってみないか?』って。

そしてダンススクールを経営する潤(ジュン)先生と出会った。
どんな相手かなと期待してみたら、潤先生はなんとまだ十六歳の高校生だった。

不思議な雰囲気の持ち主で、おっとりした人。
運動も得意そうには見えないし、のんびりしていそうだし。

正直言って、『本当にこんな人で大丈夫なのかな?』って思った。

思ったけど・・・・・・。

潤先生の見事なダンスに、俺は一瞬で『ダンスを始めたい』と思った。

だってスッゴく格好いいと思ったから。
キレッキレのダンスを見て、『こんなの踊れたら、俺っての子からモテるんじゃね?』って当時は思った。

今はこれっぽっちも思わないけど。

烏羽先生と潤先生。
そしてもう一人、影で俺達を支えてくれる人がいる。

ダンスの曲を作ってくれるピアノ教室の先生だ。
名前は栗原律(クリハラ リツ)先生。

栗原先生はダンスとは無縁みたいで、練習場に来てもいつも見学しているだけ。
練習や本番のの選曲も、この人が決めているみたいだ。

面白い人で人をからかう事が大好きな人。
何て言うか、昔の大人しい茜だったらよく弄られていそうだ。

茜みたいな落ち着いた雰囲気の生徒をよくからかっているし。
潤先生とダンス経験者の烏羽先生の指導の元、俺とそのダンス仲間はすぐに上達した。

潤先生の実力は本当に凄く、自身もまだ現役で動画サイトに自分のパフォーマンスを上げているらしい。
噂じゃ、世界的に有名な凄腕のダンサーから一緒に踊ろうと声が掛かったとか。

そんな潤先生に『葵きゅんは才能がある』とダンスをべた褒めされた俺は、進化を続けた。

楽しいと思ってダンスを続けた中学二年の時、憧れの潤先生と二人で参加したダンスコンクール。
そこで俺達は決勝トーナメントまで進むことができた。

そして将来の夢は、『潤先生のように一流ダンサーになる』と誓った俺だったけど、その夢は跡形もなく崩れ落ちてしまった・・・・・。