「んじゃ、ご飯にしましょうか。葵。下から料理持ってきなさい」

母の呆れたような言葉に、俺は驚いた。

「えっ?ここで食うの?」

「だって花菜が降りてこないんだもん。たまには違う部屋で食べるご飯も悪くないでしょ?」

厳しくしているのか、甘やかせているのか。
いつも俺は母の言葉には悩まされる。

鬼のような角は消えて、優しそうなお母さんのような表情。

それとも母は『父と母』を両方演じてくれているのだろうか。

幼い俺はよく母に怒られていた。
そしてよく父に慰めてもらった。

だから、『お父さん』という言葉を知らない花菜に、そうやって遠回しに父の存在を教えているのかもしれない。
怒った自分と優しい自分を見せて、花菜を寂しがらせないように。

本当にいつも頭が上がらない、尊敬する母だといつも思わされる。

・・・・・・。

あ、だからかな?
花菜が母の言うことを聞く理由。

母の言うことを聞いたら、母の優しい笑顔と言うご褒美が待っているみたいに。
俺の母の怒りって、ある意味優しさも感じるし。

一方の俺って怒ってばっかだ。
優しさなんてないし、小学二年生相手に手加減しないし。

いい加減『切り替える』という言葉を学ばないと。

茜との関係も、ずっとこのままだ。

「はいよ。んじゃ、取ってくるから花菜も手伝って」

「うん」

ようやく素直に俺の言うことを聞いた花菜は立ち上がる。
そして二人で家のリビングに向かうと、食卓には花菜の大好きなハンバーグが並んでいた。

ちなみに俺も母の作るハンバーグがめっちゃ好き。

料理を持って俺と花菜は再び自分の部屋に戻る。
そして部屋の中央にある小さなテーブルに料理を置くと、俺達はそのテーブルを囲った。

そして違和感を一つ覚えた。

『花菜も来たら、俺の部屋で晩御飯を食べる必要なくね?』って俺は思った・・・・・。