「そうだね、関係ないもんな。じゃあもうこのカチューシャは捨てるよ?」

その俺の言葉に、花菜は初めて顔を上げた。
どれだけ泣いていたのか分からないけど、枕は花菜の涙で濡れていた。

そして花菜の表情は真っ赤に染まっていた。

「だめ!それは花菜の!捨てないで!」

「じゃあ捨てないから話して」

「それは嫌だ」

「なんでだよ」

まるで漫才のツッコミのように俺は肩を落とした。
本当に俺によく似てワガママな奴だ。

そして言うこと聞かない我が子を叱る声が聞こえた・・・・。

「うるさいわね!『早く降りて来い』って言ったら降りてきなさい」

突然勢いよく部屋の扉が開いて、俺と花菜は驚いた。
そこには鬼の角が生えた、怒った表情の母が立っていた。

俺は母とよく似ていると近所の人から言われている。
今年で三十五歳と他の母親と比べたらまだ若く、俺と横に並ぶといつも姉弟に間違われる。

まるで二十代後半にも見える若々しい姿のお陰で、我が家の唯一の収入源である江島生花店は人気だ。
『生花のマドンナ』と、母はお客さんの間で呼ばれているらしく、花と言うより母を求めて訪れるお客さんの方が多い。

そして俺と花菜の唯一の家族。
パワフルな元気な母さんだ。

名前は江島天海(エノシマ アマネ)。

江島家には父はいない。
六年前、花菜が産まれると同じ日に亡くなった。

娘の誕生を喜んで病院に向かった父だけど、その途中に車に跳ねられた。
帰らぬ人となってしまった。

だから花菜は『父親』という言葉を知らない。
俺はよく父と遊んでいたから、父との記憶が山ほどあるけど、花菜は違う。

そういえば茜も母さんが居なかったっけ。
ずっと思っていたけど、茜と花菜って似ているな。

容姿とか性格は全然違うのだけど、花菜を見ていたらいつも昔の茜を思い出す。

なんでだろう。

ってそんなことり目の前の鬼さんに謝らないと・・・・。

「ごめん!母さん」

慌てて俺は母に謝った。
同時に情けないお兄ちゃんだと、少し反省。

「花菜もいつまでウジウジしているの?たまには『情けないお兄ちゃん』の言うこともちゃんと聞きなさい」

花菜も母の怒った声に反省。
不満そうに頬を膨らませたけど、やがて花菜も素直になる。

って母さん一言多い・・・・。

「ごめん、なさい」

そういえば花菜、母の言うことだけはしっかり聞いている。
俺がどれだけ怒っても意地張るくせに・・・・。

ってか俺ってもしかして、小学二年生の妹に既に舐められている?
お兄ちゃん失格?頭が痛くなってきたかも・・・・。

母さんにも情けないお兄ちゃん扱いされているし・・・・。