ルビコン

「葵?ご飯よ。花菜も連れてきて」

花菜と併用の小さな自分の部屋で俺は作業をしていたら、部屋の外から母の声が聞こえた。

「はーい、今行くよ。花菜、ご飯だってよ」

俺は布団の上で横になっている花菜に声を掛けてみる。
寝ているわけでないが、花菜は枕を抱き抱えてずっと何かを考え込んでいる。

「花菜?」

俺の声に反応しない花菜を見ていたら、凄く不安になった。

今日帰ってきてからずっとあんな調子だ。
何を言っても聞かないし、まるで電池の切れたロボットのように大人しい。

いつも明るい奴なのに、最近凄く大人しい。

花菜は学校のクラスメイトにいじめられている。
原因は話してくれないから分からない。

『兄ちゃんには関係ない』って怒れるのがいつものオチだったりする。

そんな花菜に、俺はもう一度声をかける。

「花菜、ご飯食べに行こ」

花菜が聞こえたのか、やっと言葉を返してくれる。

でも言うことは聞かない・・・・。

「嫌だ!」

「ワガママ言うな。それに冷めたご飯は美味しくないよ」

「じゃあお兄ちゃんが花菜の分も食べて」

俺は大きなため息を一つ吐いた。
同時に今日は『長期戦』だと覚悟を決めた。

「今日は何があったの?友達と遊んでいたんじゃないの?」

「何もない」

「本当に?何があったのか話してほしいな」

「何もない!」

何もない訳がない。
俺が作ったカチューシャは割れているし、花菜はずっとこんな調子。

『これで何もない方が不自然だ』って言いたいけど、相手はまだ小学二年生。
俺もひねくれずに粘ろう。

「じゃあなんでずっと落ち込んでいるんだ?どうしてカチューシャ割れているの?」

「うるさい!兄ちゃんには関係ないよ!」

関係ないって言われたら腹が立つ。

そう言われたら俺も手段は選ばない。