ルビコン

覚悟は出来た。
『賽は投げられた』けど、戻ることは出来ない。

でも『終わらせる』ことは出来る。
まるでゲームのリセットボタンのように、無かったことにも出来るんだ。

私は首に父のベルトを首に掛けると、勢いよく座り込むようにベルトを掴む両手を離した。

同時にすぐに意識がおかしくなる。

・・・・・・・。

本当だ。
全然苦しくない。

視界がぼんやりして、意識が朦朧とする。

あと物凄い物音が聞こえる。

確か『自殺するときは体が無意識に反応して抵抗する』って書いてあったっけ。
きっと今の私も『無意識に死から逃れようと暴れている』のだろう。

でもその物音も時間が経つ度に小さくなっていく。

痛さも何も感じない。苦しくない。

そして、これで私はみんなとお別れ出来るんだ。
挨拶していないけど、別にいいよね?

簡単だけど遺書も残したし。
問題はないはずだ。

生まれ変わったら何になれるかな?

また人間かな?

今度は男の子かな?
それとも猫とかかな?

考える余裕なんてないけど、私の思考は闇に包まれる。
墓場という闇に放り込まれるのに、何故だか懐かしい香りがした。

・・・・・・。

これは花の香り?
幼い時に何度も嗅がされた勿忘草の香り。

そして、葵の香りだ。

・・・・・・・。

なんで?

・・・・・なんで、葵?

・・・・・・・・。

わからない。

私の意識はそこで完全に途切れた。