ルビコン

まず、ベルトをドアノブにしっかり固定させて輪っかを作る。

次に私がそのベルトに首を吊るすだけ。
痛みもないみたいだし、これなら出来そうだ。

そういえば『自殺には遺書が必要なんだ』と私は思い出す。

確かに兄の立場だと、家に帰ってたら妹が首を吊って死んでいたらパニックになる。
遺書がなければ誰かが妹を殺したんだと思ってしまう。

でも、悪魔みたいな私だ。
別に遺書なんていらないよね?

私が死んでも、他の人には関係ないし。

例え家族であっても・・・・。

でもやっぱりこのまま死ぬのも変だと思う自分も居る。
勝手に死ぬのは間違っていると思う私が居る。

やっぱり遺書は残そうと考える。
紙やペンなんて落ちていないから、私は自分の携帯電話のメールの項目を開く。

そして宛先は特に記入せずに、新規メールの画面を開いた。

この新規メールの本文に遺書を残そう。
勝手に死ぬのもやっぱりいい迷惑だし。

兄や父の事だから、『桑原茜は強盗か誰かに殺された』と思われそう。
だから私が書いた遺書を残せば、兄も父も私が自殺したんだと理解してくれるはず。

でもなんて言葉を残そう。
考えてはみるけど、何を書いたらいいのか分からない。

何て家族に謝ったらいいのか分からない。

そうだ、謝ろう。
『出来の悪い娘』でしたって。

『迷惑かけてごめんなさい』って。

そう思ったら残したいことは山ほどあった。
山ほどあったけど、どれを残したらいいか分からない。

分からないから簡潔にまとめた。

『ごめんなさい』

新規メールの本文に、私はその一言を入力する。
そしてそのメールを保存して携帯電話の電源を切ると、一つ息を吐いた。

これでみんなとお別れだ。
私には『明日』という言葉はない。

だって『明日』になったら桑原茜という女の子はこの世には存在しないのだから。

悔いはない。
というかあるわけない。

自分という悪魔がいるから、みんなが不幸になる。
私は真っ先に死ぬべき悪魔なんだから仕方ない。

でも何故だか脳裏には樹々の笑顔が浮かんでくる。
樹々だけじゃなくて紗季や愛藍。

それに橙磨さんと小緑の笑顔も浮かんでくる。
もう私には関係ない人達なのに、私の邪魔をしてくる。

まるで『逃げるな』と言われているような気がするけど、私にはもう関係ない!
大きく首を左右に振って、彼女たちの存在を否定する。

そして、『これが最後なんだ』と自分に言い聞かせたら、自然と体の痛みは薄れていく。
両手でベルトを握りしめながら、ゆっくりベルトを自分の首に掛ける。

ドアノブは低い位置存在している。
当然このまま首を吊っても、足がついて上手く首に重力を掛けることが出来ない。

だから首を吊るす時は、自分の体を浮かせる必要がある。
首を吊った状態で後はベルトから両手を離し、尻餅をつくように勢いよく座るだけ。

すると体は座ったような姿勢になり、体を宙に浮かせることが出来る。
体重は首だけを締め付ける。

今の私には悩みなんてない。
強いて言うなら、『生きていることが悩み』だ。

何度も言うように、私が生きているからみんなが酷い目に遭う。

だから、私が死ねばみんなが幸せになる。