「ねぇ樹々?どうしたの?何があったの?」

私は慌てて樹々の元に駆け寄る。
同時に顔を隠す樹々の両手がとても震えていることに気が付いた。

「ごめん茜。あたし、本物の大馬鹿だ。こんなんじゃお姉ちゃんやお母さんに怒られるよ!」

「何があったの?ちゃんと説明してよ」

その時、樹々の携帯電話が再び鳴り響く。
電話の相手は『桔梗お姉ちゃん』と表示されていた。

『電話に出なくても大丈夫かな?』って思ったけど、樹々は通話拒否のボタンを押した。

同時に、さらに悲しそうな表情を見せる樹々は何があったのか語ってくれた。

「就職の内定、取り消しになっちゃった・・・・」

その言葉はすぐに理解できた。
そして理解したら、私は物凄い恐怖に襲われた。

まるで黒い影が私達を付きまとうように・・・・。

樹々は続ける・・・・。

「さっきの先生が、あたしの就職する企業に連絡したみたい。あたしがあの先生を殴ったから、内定取り消しになっちゃったよ!」

あの先生・・・・黒沼だ。
黒沼が樹々の就職企業に連絡したんだ。

『内定を貰った女に殴られた。だから内定を取り消ししろ』とでも言ったんだ。

自分が悪いのに、まるで出来の悪いクソガキのように、人をどん底に突き落としたんだ。

私の時のように・・・・・。

「げ、元気だしなよ!ほ、ほら!大丈夫だから、大丈夫、だから・・・・・・」

私は必死に樹々を励ます言葉を考える。
けど何故だか考えれば考えるほど、頭が割れるように痛い。

樹々を助けないといけないのに、私も凄く苦しい。

『人を励ます』って、こんなに苦しいものだったかったかな?

確かにあまり私自身が誰かを励ましたことがないのは事実。

でもさっきは出来たじゃないか。
小緑の悩みに答えることが出来たじゃないか。

大切な親友の励ましたいのに、なんで出来ないのだろう。

それに樹々はいつも私を励ましてくれているのに、どうして私は樹々を助けられないんだろう。

どうしていつも私ばっかり助けられるんだろう。

・・・・・・・。

もう、いやだ。自分が大嫌いだ。

どうして私は何も出来ないんだろう。

生きていても意味ないじゃん・・・・。

・・・・・・・。
そう思ったら、私も悔しくて涙が溢れていた。
泣いたら駄目だと樹々と約束したのに。本当に情けない・・・・。

私の涙が樹々の腕に落ちたから、樹々は私が泣いていることに気が付いたみたい。

そして樹々は慌てて涙を制服の袖で拭うと、また私を励ましてくれる。
涙を溢す私を心配してくれる。

自分の方が辛いのに、私に真っ赤な笑顔を見せてくれる。

本当は自分が一番辛いはずなのに。