樹々から目を逸らす私に、再び樹々は私に笑顔を見せてくれる。
そして何かを閃いたのか、その笑顔は一層深くなる。

「そうだ!物事を大きく考えよ。ほら例えばさっきの映像の事。確かに茜が犯人じゃなくて、紗季が犯人かもしれない。でもそれがなに?それだったら今度は、紗季を助けたらいいだけじゃん。それにシロさんに言われなかった?何事も物事は前向きに捉えるって」

「うん」

それは城崎さんと二人で葵について話し合った昨日の早朝の事。
クヨクヨした私に説教をしてくれた時の言葉だ。

「実はそれ、あたしもよく言われていたんだ。あたしの場合はシロさんじゃなくて、お母さんにだけど。だから前向きにいつも考えていたら、怒ることや辛いことを忘れて『また頑張ろう』って思う。って、最近まであたしも実戦で使えなかったんだけどね」

一瞬苦笑いを浮かべた樹々は、私への説教を続けた。

「あたしも茜と同じ。人が怖くて、人に頼るなんてことは絶対に出来なかった。だって、人って何考えているかわからないし。お姉ちゃん以外は頼りたくなかったし。でもそんなある日、あたしに妹と弟が出来た。『末っ子で、とりあえず泣いていればお姉ちゃんに助けてもらえる』って考えだったけど、そうはいかなくなった。『お姉ちゃんだから、泣かずにしっかりしなきゃ』って思った。 まあでも、今でも泣いちゃうけどね。この前も二人を励まそうとしたけど、結局私もお父さんの胸で泣いていたし。

だから『お姉ちゃんだからって理由で泣かないのはおかしい』って事に最近気が付いた。だって今まで泣いて育ってきたんだもん。それを変えようなんて無理だから、あたしは決めたの!このまま向日葵と瑞季に『情けないお姉ちゃんだと認めてもらう』って。そう思ったら、まだあたしも泣いてもいいよね?『お姉ちゃんだから』って理由で、妹や弟の向日葵と瑞季を頼らないのも変な話じゃない?」


樹々は私の手を握ると、満面の笑みを見せてくれた。
可愛らしい泣き虫なお姉ちゃんの笑顔。

「だから茜も前向きに考えようよ!あと友達を頼る。それも紗季に教えてもらったんでしょ?だから、今こそあたしを頼ってよ!頼りないあたしだけど、『あたしが茜を守る』って言っているだから頼ってみてよ!」

その言葉を聞いて、私は思い出した。
樹々にどうしても聞きたいことがあったんだ。

「樹々、なんで私の為にそんなことをしてくれるの?」

どうして樹々は私の為に愛藍に怒っていたのか。
私の代わりに黒沼を殴ったのか。

今まで怒った顔なんて見せたことなんてないのに。
自分の過去に対しても怒らなかったのに。

それが理解できない。

『友達だから』という理由じゃ、私は納得出来ないのに・・・・・。

・・・・・。