嵐のような雨は止んで、夜空には月が浮かんでいた。

時間は午後七時。

いつの間にか夜を迎えて、私は自分の部屋に居ることに気が付いた。
お兄ちゃんに貰ったベッドと、タンスと大きなグランドピアノしかない色気のない私の部屋。

「茜!聞いているの?」

そのピアノの椅子に座る私の前には、樹々の姿があった。
少しご立腹の様子で、腕を組んで呆れた表情を見せている。

日曜日だというのに、兄と父は仕事で帰りが遅い。
そんな私を一人にさせないように、樹々はみんなと解散した後もずっと側にいてくれたみたいた。

「ごめん」

私が小さく謝ると、そのご立腹の樹々の表情が更に深刻になる。

「なんで茜が謝るのさ。茜は自分の過去と向き合おうとしているだけじゃん。それを言うなら、あたしの方こそごめん・・・・・。あんなことになっちゃって、二度と学校に入れなくなっちゃったかもしれないのに・・・・・・」

樹々の暴れる姿を初めて見た。

愛藍に怒っていた時もそうだったけど、私はただただ驚いた。
信じられなかった。

そして樹々が凄く怖かった。

だって、樹々が怒るなんて思わなかったから。
いつも私の前では笑ってくれている樹々だったのに。

「でも元はと言えば、私が悪いし。黒沼の顔を見ていたら昔のことを思い出すし。二度と思い出したくない記憶なのに」

黒沼のことは本当はよく覚えている。
でも思い出すと辛くなるから、いつも知らないふりをしていた。

『そんな人知らない』って自分自身に言い訳していた。

だから昨日不良から助けてくれた男は黒沼だと、本当にすぐ分かっていた。
七年ぶりなのに、見た目も昔と違うのに、本当は目の前の男が黒沼だとすぐにわかった。

黒沼を自分の中で知らない人だと言い訳していた理由は、私の仲間に知られたくなかったから。
知られたらまた心配されると思って嫌だった。

「大丈夫だって!茜の側にはあたしがいるから。どんな敵でも、あたしが絶対に茜を守るから。だからそんな顔しないでよ」

知られた結果がこれだった。
樹々の怒りを爆発させてしまった。

全部、私が悪いんだ・・・・・。