「本当にお前はいつも可哀想な人間だな。さっきの江島花菜を庇った理由は、江島花菜が自分に似ていたからか?それとも、江島葵の妹だからか?」

刃物で背中を切りつけられたような黒沼の言葉に、私は足を止めてしまった。
『黒沼の言葉は聞いたら駄目』だと痛いほど分かっているのに、罠だと分かっているのに・・・・・。

私は再び黒沼の不気味な表情を確認する。

そして答える。

「いじめられている人がいたら、助けようと思うのが普通です」

と言うか、その言葉だけは無視できなかった。
『逃げちゃ駄目だ』と、そんな気がしてしまった。

だって花菜のこれからの人生も懸かっているだろうし。

でも・・・・・。

「ほお、じゃあなんでクラスのみんなは、お前を助けなかったんだ?」

どうやら、この男には分からせる必要があるようだ。
自分が何をしたのか、自分がどんな間違った道を進んでいるのか。

じゃないと、花菜が可哀想だ。
今度は『花菜が可哀想な奴だ』と言われてしまう。

私みたいに人生を潰される。

「だって、黒沼が私を見捨てていたから。黒沼だって気が付いていたくせに、担任のくせに葵と愛藍を止めなかったから。最初から『私の存在はなかった』みたいな対応だったじゃないですか!」

私は黒沼に思っていた事をぶつける。
震えた体で、羊の私は狼という黒沼に『七年越しの想い』と言う名の体当たりを食らわせる。

すると黒沼は少し驚いた表情を見せた。
まるで『桑原もこんな顔をするようになったんだな』と言っているような、大嫌いな表情。

これでいい。そして他にも黒沼に言いたいことは山ほどある。
だけど頭が整理できていない現状だ。

怒り狂うこんな私、多分初めてだし。
上手く自分をコントロール出来ない。

何より私自身がかなり動揺している。

でももう負けていられない。
遠くで脅える花菜と言う子羊を守るためにも私が戦わないと。

だから、他にも言いたいことを言ってやろうと思ったけど・・・・・。

・・・・・。

黒沼という狼は容赦しない。

なんの躊躇いもなく、私を丸呑みした。