「そ、そうかな?」

「うん。小学生の時は『スゴい大人っぽいな』って思ったけど、何だか今は全然。あっ、でも今も落ち着いて大人っぼく見えるけど、子供ぽい所もあるんだなって」

その言葉に興味はあった。
流しても良かったが、紗季は私の小学生時代を知る人物。

だからこそ、今の客観的に見た私には興味はあった。
『ピアノを弾く桑原茜』として『一人の女子高生の桑原茜』として何でもいい。

紗季の言葉を聞きたい。

でもやっぱり今の私には、その言葉だけで充分だ。
心が踊るような言葉が聞けて嬉しいし。

嬉しいからこそ、私は昔の口癖を返す。

「私は大人なの。みんなと考えていることが違うの。今もその想いは変わらない、・・・・・はず」

だけど、なぜだか悲しくなる。
どうして葵や愛藍の顔が浮かんでくるのだろう。

私、変わるのが怖いのだろうか。
変わってしまったら葵や愛藍と仲直り出来ないと思っているのだろうか。

まあ何にしても今の私には知恵が足りなさ過ぎる。
まだ彼らとどうしたいのか、全然未来のビジョンが見えてこないし。

「そうだといいね」

紗季の優しく同情してくれる声を聞いて私は思った。
『もしかしたら紗季は、私の本心を捉えているのかもしれない』って。

そんな中、急に紗季は慌て出す。

「あっ、ごめん。お母さん呼んでる。これから退院の手続きだから。最後の夏休みになるかもしれないから、一緒に遊ぼうね」

「うん。いっぱい遊ぼ」

私がそう言うと通話が切れた。
同時に休憩室は再び無音に変わる。

そして『やることがない』と私は再認識されられた。

だから私は席に戻ることを決意。
『最悪、誰かの演奏を子守唄に寝ていればいいや』と、最低な気持ちで私は休憩室を出る。

そして長い通路を通り、私はコンサートホールの入り口を開ける。