「そういえば桑原さんだっけ？黒沼先生って覚えている？さっき急用でここに来ていたのよ。移動が激しいこの小学校でも、黒沼先生なら知っている先生じゃないのかな？もう十年近くはこの学校にいるみたいだし」

「・・・・黒沼先生？」

二度と聞きたくない名前を口したら、その名前の先生が再び現れた。
最悪のタイミングで職員室に入ってきて、また私の前に立ち塞がる・・・・・。

「お疲れ様です、黒沼先生。さっき言っていた卒業生が来ています」

「卒業生？」

小さくやる気の無さそうな声に、私と樹々は振り返る。

するとそこには私達に笑顔を見せている黒沼が立っていた。
私達が最悪の関係にになった時の小学五年生の時の担任の先生が再び現れた・・・・。

「桑原じゃないか！なんだ、まだ帰ってなかったのか？早く帰れと言っただろ？本当にお前は俺の言うことを聞かない奴だな」

・・・・・・。

「すいません・・・・・・」

馬鹿にするような黒沼の言葉に、私は小さな声で謝った。

同時にこれが昔の私と黒沼の関係だったと思い出す。

昔は黒沼に何を言われても私は謝り倒した。
理由としては、『謝ることが自分にとって一番被害が少ない方法』だと思ったから。

愛想の無い奴だと思われて、私の事を嫌いになって欲しかったから。
二度と私の前に現れてほしくないと思っていたから。

でもやっぱりこの男には効かなかったみたい。
謝ることの意味すら黒沼は分かっていなさそうだし。

「そういえば昨日は何やっていたんだ？アルバイトか？不良にまで絡まれて相変わらず大変だな」

突然昔の教え子と話すような笑顔を見せる黒沼。
そんな緩い関係じゃなかったのに。

その顔は本当にやめてほしい。

ってかその言葉、どういう意味？

「『相変わらず』ってどういうことですか？」

「言葉通りさ。お前は昔も今も変わっていない。不良に縁があるって意味だ。昔も今も」

不良に縁がある？
『昔も』って、それは私の親友の事を言っているのだろうか。