ルビコン

映像内変化も特にない。
そして残り十分の所で烏羽先生は映像を通常速度で再生させた。
でもだからと言って、何かが映っている訳じゃない。

少し陽が落ちた誰もいない裏庭の映像が流れるだけ。

そこから三分が経過するけど、何も映っていない。

残り七分。
これから誰が移るんだろうかと思った直後の事だった。

突然映像にはポニーテールの女の子が現れた。
彼女は中を向けているため、まだ顔を確認することは出来ない。

恐らく当時の私達と同じ学年だろうか。
背は高いが、その細い手足は見ていて不安になる。

まるで紗季みたいな女の子だ。

・・・・・・って、え?

「紗季?」

無意識に私はそんなことを呟いていた。

そしてその私の小さな声にみんなは反応する。
目を凝らすように映像に集中していた。

女の子の手には緑色の葉っぱがあった。
雑草にも見える、少し細長い緑色の葉。

女の子はウサギ小屋の前でしゃがみこむと、小屋の小さな隙間からその葉っぱを中に入れた。
その姿はどう見ても、餌をあげているようにしか見えない。

その時、私達が居なくなってから動かなかったウサギがまた動いた。
ダルそうな体を動かして、女の子が与えた草を食べていた。

・・・・・・・。

ウサギは女の子からもらった葉を食べていた。
『私達が最後に餌を与えた』と、当時も今も思っていたが、それは違うと証明された。

この映像を見る限りでは違うみたい・・・・。

「ってことは、茜は犯人じゃない?そうだよね?この子が犯人って事だよね?」

私の容疑が完全に晴れた訳じゃないけど、樹々は喜んでいた。
まるで『これで茜だけが責められるのはお門違いだ』と言ってるような自信に満ちた表情。

「だと、いいんですけどね」

一方の小緑はそう言って、絶望に染まった表情を浮かべていた。
震えた声を出すのがやっとで、真っ青な表情に変わっていた。

少し間を置いてから愛藍も小緑同様に、映像の女の子の正体に気がつき始めた。
やがて愛藍も小緑同様に真っ青な表情に変わる。

そしてその女の子が顔を出した瞬間、私は映像から目を逸らしてしまった。
理解の出来ない現実に、私は納得したくなかった。

『夢であってほしい』と私はそう願った。

・・・・・・。