ルビコン

「アンタ、この花分かるの?」

樹々の言葉に愛藍は視線を画面に近づける。
そして葵が持つボヤけた白い花を図鑑で何度も確認していた。

私自身、その花が『どんな花』だったかは正直覚えていない。
花に興味がないし、当時の葵も知らないと言っていた。

『なんの花?』

『よくわからねぇ。綺麗だから持ってきた』

『花屋さんなのに?』

『俺は継がねぇし、花なんかに興味ねぇよ!』

ってね・・・。

でも確か、白い小さな花が無数に咲く花だったと思う。
確かではないけど、道端によく映えている花だ。

葵も『綺麗な花』って言っていた。

ってか最近見たことがあるような・・・・・。

・・・・・・・。

いや、ちょっと待って。

それってこの花じゃないだろうか?

「ねぇ愛藍。この白い花って分かる?」

私は花菜が落とした白い花を愛藍に渡す。
白い花びらは綺麗で小さく、その小さな花は無数に咲いている。

花菜の花のカチューシャに付いていた綺麗な花。

古い映像だから、葵が持っている花は『白い花』という特徴しかわからない。
形もぼやけてよくわからない

だけど私の微かな記憶だと、葵が持っていた花とよく似ている気がする。

でも愛藍はその花を図鑑で詳しく調べているが、該当する花はなかったみたいだ。
残念そうに彼は肩を落とした。

「いや、わりぃ。まだ調べていない花だ。すいません、再生お願いします」

愛藍の悔しそうな表情を見ていた烏羽先生は、無言で再生ボタンをクリックする。

同時にみんなも愛藍からパソコンの映像に再び視線を移す。

映像は再び動き出す。
ウサギはその花の臭いを嗅ぐと、葵が持ってきた白い花を食べ始めた。

元気よく、まるでご馳走のように食べ始めた。

『おっ!食ったぞ茜』

『そうだね』

葵は無邪気な笑顔を私に見せて凄く喜んでいた。

確か私はその葵の笑顔を見て、私自身も嬉しかったのを覚えている。
何故だか分からないけど、それだけはよく覚えている。

そして葵は白い花をウサギの目の前に置いた。
『これで今日は安心だ』とウサギ小屋を閉めた私と葵は映像から姿を消した。

・・・・・・・。

ここまでは私もしっかりと覚えている。
私と葵の犯行映像がしっかりと映っている。
これで私と葵が犯人だという立派な証拠になるんだけど、映像がまだ四十分ほど残っている。

『烏羽先生の編集ミスかな?』って思ったけど、私は樹々が言った『犯人候補がいる』という言葉を思い出した。

だとしたら、この後に誰かが映像に写るってことなんだろうか。

『私と葵以外の誰かがウサギに餌を与えた』とか、そういう事なんだろうか。

「すまないが、ここからは早送りさせてもらう」

烏羽先生は映像を早送りにする。
早送りする映像には特に何も写っておらず、動かないウサギの姿が映し出されていた。