ルビコン

映像は一時間の長い映像だった。
あまり性能のいいカメラじゃないからか、音や声はない。

画質も御世辞には良いとは言えず、ぼんやりと七年前の私と葵が写っているだけ。

映像に映る当時の私は葵に鍵を渡していた。
その鍵を受け取った葵は、ウサギ小屋の南京錠を外して中のウサギの様子を確認する。

私はウサギに興味がなかったのか、ウサギ小屋から離れて葵の様子を見ていた。

この時のことはよく覚えている。
話した会話もよく覚えている。

声は入っていなかったけど、当時現場にいた私だけは頭の中で葵と私の声が再生されていた。

『最近元気ねぇよな。ずっと動かねぇし。変なもの食わした?ってか餌減ってないし。このままでよくね?』

『葵がいいって言うならいいかも』

『ホントお前ってテキトーだな』

私と葵が会話した後、葵は走って小屋から離れて行った。
カメラから葵は見切れたため、彼がどこに行ったのかはこの映像ではわからない。

そして、この時の会話が私達の関係を壊した原因だと私は思い出す。
私がいい加減な事を言ってしまったから、今の関係になってしまったんだ。

『花でもあげてみたら?その辺の』

私がこんなことを言わなかったら、私と葵は今頃一緒に遊んでいたのだろうか。
愛藍ともずっとこのままの関係を維持できていたのだろうか。

って考えるのはやめよう。
今更そんなことを考えても意味ないし。

取り残された私は今では骨だけになったベンチに腰掛けていた。
そしてため息を一つ吐いていた。

そこから約十分ほど私がベンチに座っているだけの映像が流れた。
空を見上げたり、ベンチにもたれ掛かったりしていた。

当時の私、本当に暇そうだ。

そういえばこの頃の私、本当に無表情だ。
一人でいるってこともあるけど、さっきから全然表情が変わっていない。

本当に無表情。

『おかえり』

確か葵が帰ってきたのを確認した私は、そんなことを呟いていた記憶がある。
直後、映像の葵が笑った。

葵はすぐにウサギの元へ向かうと、白い花をウサギに差し出す。

・・・・・・・。

「すいません!ちょっと止めてくれませんか?」

突然の愛藍の言葉に私達は驚く。
映像を管理している烏羽先生は停止ボタンをマウスでクリックした。

愛藍が映像を中断した理由は、葵が持ってきた花を詳しく知るため。