「その手を離してください!」

私は立ち上がると、黒沼を睨んだ。
小緑同様に黒沼を睨み付けた。

怒られるかも知れないけど、今はそんなことはどうでもいい。
花菜が救われたら、私はそれでいい。

黒沼は私に怒ってくると思った。
七年前のように、私を怒鳴ってくると思ったけど・・・・・。

「誰かと思えば桑原じゃないか。元気しているのか?」

不気味な笑み共に、黒沼は驚いた表情を見せた。
怒ってくると思ったのに、黒沼は私だけには優しそうな表情を見せてくれる。

意味がわからない。何を企んでいるんだろうか?

「いいから、その手を離してください。花菜は悪くありません。本当にいじめられていただけなんです」

正直言って恐い。
それを証明するように私の手や体は震えている。

でも心の中では『負けるな!』と何度も叫んだ。
だってここで逃げたら、花菜は私と同じ道を歩んでしまうかもしれないし。

そんなのは私が絶対に認めない。
辛い思いをするのは私一人で充分なんだ。

もう私の周りが嫌な思いをするのは嫌なんだ。
見ていてとても苦しくなるんだ。

けど・・・・・

「お前は相変わらずお人好しだな。そいつ、お前をいじめていた江島の妹だぞ?憎くて仕方ないんじゃないのか?江島にやられた分、妹にやり返すチャンスじゃないのか?」

そのふざけた黒沼の言葉に、私は声を張った。

「ふざけないでください!そんなことして何が生まれるんですか!私は葵とまた仲良くしたいだけです!」

それが私の今の想い。
七年経った、私の想い。

それ以外はない。

今はただ葵と話したい。
葵と仲良くなりたい。

そのために『今日』と言う日を頑張っているんだ。
祭りだと言うのに、一日でも早く葵と仲直りするためだけにみんなは私に協力してくれている。

楽しい時間を削ってまで私を応援してくれている。

でも目の前の男は黒沼というクズ野郎だ。
そんな私の行動や考えを何一つ認めてくれないクソ野郎だ。

「こりゃ面白い!あはは!仲良くって、お前はどれだけお人好しなんだ!」

図書室に黒沼の笑い声が響く。
うるさくてイライラする嫌いな声が私の脳内にも響く。

と言うか頭が痛くなってきたかも。

本当に大嫌いだ、この人は。
『この人と出会わなければ私は幸せだったのかな?』と思わされる。

ホント、いや・・・・・。