「ダッサ。バーカ!私らに歯向かうなんて生意気だよね?」

「だったら、次は俺と喧嘩してみるか?ガキだからって容赦しねぇぞ」
小緑を見下す彼女らの目の前に、大きな体格の持ち主の愛藍が小緑の目の前に立つ。
そして今の愛藍の表情は、私をいじめていた時の恐い表情そのもの。

流石に少女達の表情も強張る。

「な、何?何するのさ!」

愛藍は本当に容赦しないのか、一人の少女の胸ぐらを掴んだ。
まるで『歯を食いしばれ』と言っているような光景に見えたが、遠くから聞こえる大人の男の声で、愛藍の動きが止まる。

「こら。何をやっている」

その声はただただ不気味だった。
人の心を持たない化物のような声・・・・・。

同時に七年前の辛い記憶が私の中に蘇ろうとする。

「うわ、黒沼だ!逃げろー!」

少女達はその男の名前を口にすると、愛藍を避けて逃げていく。

そして少女達と入れ替わりで、見覚えのある男の人が図書室に入ってきた。

小さくやる気の無さそうな声の持ち主は、眼鏡をかけた初老の男の先生だった。

頬は窶れてかなり痩せて見える。
白髪も多く、七年前とは大きく姿が変わっていた。

・・・・・。

目の前の男を私はよく知っている。
恨みたくなるほど大嫌いな男の先生。

私にトラウマを捩じ込ませた先生・・・・・。

この男の名前は黒沼晋三(クロヌマ シンゾウ)。
私達が最悪の関係になってしまった小学五年生の時の担任の先生だ。

思い出したくないけど、逃げた少年が口にした名前を聞いて、私は嫌でも思い出した。

同時に昨日の屋台で不良から私を助けてくれた先生でもある。

本当は昨日、目の前の男が黒沼だと分かっていたけど、思い出したくなかった。
黒沼と私の関係を思い出したら、頭が割れそうなほど痛くなると分かっていたから。

その黒沼は愛藍に視線を移す。

「お前は柴田愛藍か。相変わらず人を殴ることしか脳がないのか?」

教師とは思えない挑発的な黒沼の言葉の直後、愛藍は悔しそうに拳を握った。
でもそれじゃ駄目だと気がついた愛藍は、必死に感情を噛み殺す。

「すいません」

愛藍は素直に謝ると同時に拳の力を抜いた。
悔しそうに、黒沼に聞こえないように小さく舌打ち。

「山村も何やっている?また悪さをしに来たのか?」

一方の小緑はどんな相手でも売られた喧嘩は買う主義の女の子だ。
例え教師が相手でも、結果がどうなろうとも小緑は怯まない。

だから小緑には黒沼相手でも関係ない。

そして直後、黒沼の怒りが現れる・・・・。