ルビコン

私は無視してまた集中しようと思った。
再び視線を卒業アルバムに戻そうとしたけど、何故だか脚に小さな温もりを感じた。

・・・・・。

って、こら!

「ちょ、なに!?」

その慌てた声と共に、私は机の下覗きこむ。
犯人は花菜だと思ったが、その通りだった。

理由は分からないけど、花菜は私のスカートを覗こうとしている。

「ちょ!アンタ何してるのさ!」

私の声に花菜は驚いたのか、すぐに私のスカートをめぐる手を止める。
そして『どんな言い訳をするのか』と私は期待していたが、意外な言葉に私は驚いた。

「お姉さん、もしかして桑原茜?」

「えっ?」

私の名前を知っている人は、昔からの友達や高校のクラスメイトの人達。
それとピアノを弾く私を知っている人だけ。

それと超例外で、初めて小緑と会ったときのように、兄弟姉妹に私の存在を教えてもらったとか。

そう考えたらこの少女は誰かの妹なんだろうか。
でも今私の知っている人で、この子に似ている人はいないし。

なんでだろう。
似てはいないけど、どうして彼女は『昔の葵』を思い出させてくれるんだろう。

まるで目の前に幼い葵がいるみたいだ。

それとそのカチューシャから甘い花のような香り。
葵の香りと良く似ている。

まさか、葵の妹?
葵の妹だから、私の名前を知っている?

でも葵の妹なんて聞いたことないし。

それとも葵の娘?
ってそんな訳がないか・・・・・。

葵も私と同じ高校三年生の十八歳だし・・・・・。

「あっ!いた!こら花菜」

「やばっ!」

少女の声に、花菜は慌てて逃げようとする。
でも机の下から出ようとした時に、花菜は頭を角にぶつけて悲鳴を上げた。

同時に花の付いたカチューシャが彼女の頭から外れた。

「いったー!」

ぶつけた反動で、花菜は泣きそうな表情で頭を押さえている。

本当に痛そうだ。
このままじゃ花菜はタッチされて鬼になるだろう。
不幸だ、可哀想に。

・・・・・・・・。

「次、花菜が鬼だよ!鬼って言うか、『また鬼』だけどね」

本当に可哀想だと思った。
タッチなら理解できるのに、何故だか花菜は少女に蹴られた。

それも力一杯の蹴りを・・・・。