一方的に話す私の言葉を、まるで心のメモ帳に記入するように小緑は真剣に聞いてくれている。

と言うか、もう少し続けた方が良いのだろうか?
こんなことを言う私が、とても変だと思う。

常に誰かに励まされて生きてきた人間だから、早くこの時間を終わらしたいのが本音。

でも小緑は私から視線を変えない。
次の私の言葉を待っているような小緑の視線に、また『私らしくない言葉』を言ってみる。

「変わろうと努力したら人は変われる。成功とか失敗とか気にしなかったら、人は間違いなく変われるよ。ちなみにこれ、私のピアノの先生の言葉。目が見えない人なのに、本当に前向き過ぎる人って言うか」

「目が見えない?」

「そう。昨日のパーティーに来ていたでしょ?私のピアノの先生。私よりずっとピアノが上手なのに、その人は目が完全に見えないんだ。だから隣にいつも男の人がついているの。私の事をからかってくる乱暴な人だけど」

乱暴は言い過ぎたかな?
でも最近のレッスンではいつも餌食になっている私だし。

凄い先生なんだけど、性格が腐っているって言うか。

私はもう一度小緑の表情を確認すると続ける。

「それに、変わることを恐れたら人は変われない。性格でも変わりたいと思うなら、変わる努力をしないと。それにいつもと違う小緑でも、麦なら絶対に受け入れてくれるよ。私と愛藍のように、一度繋がった絆は簡単には砕けないし。どんなことがあっても、どんな形になっても絶対に消えないし。ほら小緑と瑠璃もそうだったでしょ?」

私の事を応援してくれる今の小緑のように、私も小緑の悩みなら全力でサポートしたい。
最近小緑のこともようやく解ってきたし、もう私達は親友なんだから。

親友だったら頼ってほしい。

そうやって元気が出る言葉を言ってみたけど、小緑から返ってきたのは私の胸に突き刺さる鋭い槍のような言葉。

それも私の心臓を貫通するような鋭利な槍・・・・。

「なんでそんなにアドバイス出来るのに、茜さんはいつも一人で誰かを頼ろうとしなかったんですか?茜さんは本当に実行しない口だけの人ですか?」

「いや、マジで手加減してください・・・・。あと栗原先生みたいに性格悪くなるのだけはやめて。そうなったら私は全力で小緑を止める」

もうこれ以上敵を増やしたくない。
栗原先生に城崎さんや橙磨さん。

最近は愛藍も樹々も私の事をからかってくるし、もう流石に勘弁。

と言うか若槻家の樹々以外はみんな敵だ。
性格の悪い、私の天敵だ。

紗季も時々性格の悪いことを言ってくるし。
目の前の小緑も。

そんな小緑は私に笑みを見せてくれる。
意地悪な笑顔じゃなくて、無邪気な子供の笑顔。

「ありがとうございます茜さん。僕ももっと頑張ります!」

最後に『行ってきます』という言葉を残して、小緑はまた可愛らしい笑顔を見せた。
紗季とそっくりな優しい笑顔。

そういえば私、紗季と比べたら小緑の笑顔ってあんまり見たことなかった。
中学一年生なら、もっと楽しいことして笑うべきなんだと思うけど・・・・。