「僕、変ですか?」

「え?」

「いつも大人しいやつがこんなことを言ったら変ですか?変わろうとキャラを変えたら、麦に嫌われるかな?」

その弱気の小緑の声に、私の中で安心が生まれた。
『やっぱり小緑もまだ私同様の世間知らずの女の子だ』って。

って、そっちの方が小緑らしいのに。
「そんなことないよ。私もいつの間にか変わっているし。愛藍にも何度も『変わったね』って言われたし。こんな私を愛藍は受け入れてくれたし」

一度小緑の様子を伺ってから私は続けた。

「確かに昔からの友人なら、昔の自分のままの方がいいいと思う。変わったら絡みづらくなる場合もあるし。実際に愛藍と再会したけど、愛藍自身が変わっていて最初は別人のように思った。だから私は少しだけ避けていた。でもやっぱり変わってない愛藍を見て、私もホッとしたって言うかなんて言うか・・・・」

話を上手くまとめられない・・・・。

というか私がこんなことを言うなんて変だ。
いつも慰められる側の人間だから、逆の立場になるとどんな言葉を言ったらいいのかわからないのが本音。

慰めている私の頭の中がどんどん真っ白になっていく。

でも私はまだ言葉を続ける。

「えーっとでも、心配しなくても小緑は変われると思うし。それに小緑はどんな大人になりたいの?」

私、変なことを言ってしまっただろうか。
小緑は私から視線を変えない。

まるでにらめっこのように小緑は真剣な眼差しで私をずっと見つめている。

「僕は、さきねぇみたいになりたいです。みんなに信用されて、頼られる大人になりたい。でも僕はさきねぇみたいに頭がよくないし」

「でも小緑はダンスがあるじゃん。昨日のダンス、滅茶苦茶上手だと思ったし」

直後、私は『しまった』と小緑から目を逸らす。

案の定も小緑は私の言葉に疑問を抱いてすぐに私を細い目で睨んでくる・・・・。

「ずっと泣いて見ていなかったのに?喧嘩売ってます?」

「ちょっとは見逃して!」

ため息を一つ挟んだ私は、また小緑の表情を確認した。

話を戻す。

「えっと、小緑はみんなに頼られる存在になりたいの?紗季みたいな存在に」

私の言葉に、小緑は小さく頷いた。

「だったらそれダンスでもいいじゃん。小緑がダンスでみんなに頼られる存在になったらいいんじゃないかな?こう見えて一応私もピアノ界じゃ凄い人だし。保護者情報だと、ピアノキッズから『無愛想なピアノお姉ちゃん』って言われて人気あるみたいだし・・・・。小緑が言う通り、頼られる存在って結構気持ちいいもんだし。小緑にはダンスの才能があるんだからさ。それにリーダーの葵も『昨日のダンスで引退する』って言っていたんでしょ?だったら次のリーダーは小緑がなってもいいんじゃないかな?そうしたら、みんな付いてくると思うし」

実は数日前、春茶先生と栗原先生と一緒に近くのチビッ子ピアニスト達と合同練習を行ったことがある。
たった一時間の短い時間だったけど、チビッ子にピアノの悩みを相談されて私と言う存在に頼ってくれた。

今まで誰かにピアノを教えたことが無かったから、それがすごく新鮮に思えてすごく気持ちよかったと私は覚えている。

ちなみにそこで言われたのが『無愛想なピアノお姉ちゃん』だ。
何て言うか、凄くそれに関しては腹が立った。

もう無愛想じゃないし。