「意外な所に敵あり。ですね茜さん」

私と同じように、影から二人の様子を伺う小緑。
そして小緑は何を思ったのか、私を置いて二人の元へ向かった。

そして怒った樹々を止める。

「樹々さん、そんなことを言ったら茜さんが落ち込むからやめて。仲直りした二人に口出しはよくないと思います。樹々さんはまた二人を最悪な関係にしたいわけですか?」

まるで小緑に紗季が乗り移ったような、お姉ちゃんのような小緑の言葉。
その直後、樹々の表情が崩れる。

「そうじゃないけど」

「今日はやることいっぱいですし、それにここにいるメンバーは茜さんを救うために集まったメンバーでしょ?茜さんを傷つけて、何になるんですか?」

小緑は冷静にそう言うと、未だに影で隠れる私のいる方を振り返った。
『もう大丈夫だよ』と小緑に言われている気がして、私はみんなの待つ場所に戻った。

そして樹々は私に謝る。

「ごめん、茜」

「ううん、私は大丈夫」

『それより愛藍に謝って』と続けて言いたかったけど、今は何だか違うと思って言うのを止めた。
樹々にも『想い』というものはあるし。

だから、私はみんなに笑顔を見せた。
これ以上、最悪な空気を作らせないように・・・・。

もう誰も傷付いてほしくないから。
私はこの大切なメンバーが傷付く姿を、もう二度と見たくない。

「早く急ご!小緑が言う通り、まだまだやることは沢山有るし!」

みんなを引っ張るように、私は再び先頭に立って目的地まで誘導する。
お通夜のようなどんよりした最悪な雰囲気だったから、私は適当に話題を作った。

みんなを笑わせようと、小緑と一緒に頑張った。

・・・・・・。

でもみんなの表情は晴れなかった。
話題作りなんてしたことないし、私自身の会話が下手くそだから、みんなを笑顔にさせることは出来なかった。

でも原因はそこじゃない。
話題作りや私自身の会話が下手くそなのもあるけど、一番の理由は他にもある。

それは、私自身が笑っていなかったから。
まるで葵と愛藍という親友の存在に怯えて声が出ないあの頃のように。

私の心は動揺していた。

何より、『樹々が怒っている所』を初めて見た。
いつも私のために笑顔を見せてくれる樹々なのに。

私にはショックが大き過ぎた。

多分それが原因。
私が脅えて笑えない原因だ。