いや、何を言っているんだ私は。

どうしてまた言い訳をして逃げようとするんだ。

なんで現実からすぐに目を逸らしてしまうんだろう。

『柴田アラン』とは、『柴田愛藍』がピアニストとして活動するときの名前だ。

つまり同じ人物。
名前を片仮名にして、彼はプロとしてスタートを切った名前。

その名前が私の持つパンフレッドに記載されている。昼休憩の直前の演奏、そこで柴田アランが演奏を聞かせてくれるみたいだ。

参加者が二十二歳以下と言うこともあって、春茶先生が言う凄腕の演奏者も私達と同世代の音楽家を選出したようだ。

何となく納得。
だけどそれがどういう意味を表すのか、正直言って私にはよく分からなかった。

・・・・・。

と言うか、理解したくなかった。

でも脳は理解していなくても、心は理解している。

だからなのか、パンフレッドを握る私の両手がいつの間にか微かに震えていた。
震える心が私に危険信号を照らしてくれる。

そしてようやくその意味を嫌でも理解した頃には、私は暫くそのベンチから動かなかった。

・・・・・・・。

いや、『動かなかった』と言うより、恐怖のあまり全く動くことが出来なかった。

七年前の日々と同じ目に遭うような気がして、ただただ怖かった。

ホントに、怖かった・・・・。