城崎さんはカウンター席で難しそうな書類と向き合っていた。
みんな楽しく過ごしているのに影で仕事をするなんて、本当に尊敬する。

本当にいつもカッコいい人だ。

そして城崎さんも私達の存在に気が付いてくれた。
同時に私達に笑顔を見せてくれる。

「あら茜ちゃん。どうしたの？就活する気になった？」

「就活はしないです。いや、しなくちゃ駄目なんですけど・・・・。ってそれより紹介したい人が」

城崎さんのお金を数える手が止まる。
そして愛藍の表情を見て、城崎さんはまた笑った。

「ああ。柴田愛藍くんね。茜ちゃんをコテンパンにいじめていた」

「ちょ、城崎さん！」

突然『とんでもない爆弾を投げつけられんだ』と理解した私はかなり焦った。
相変わらず笑顔でそんなことを言えるなんて、本当にこの人の考えている事はぶっ飛んでいる。

一方の愛藍は真っ青な表情を浮かべていた。
まるでその爆弾の爆発をまともに受けてしまったように、愛藍から元気という言葉がごっそり抜けてしまった。

そしてノックアウト寸前の愛藍は声を振り絞る・・・・。

「いや、その通りなんで・・・・マジでその通りなんで・・・・・」

「愛藍気にしなくていいから！って城崎さん！」

私は落ち込む愛藍を見て慌ててフォローを入れる。
同時に私は崎さんを睨み付けたが、城崎さんの表情は変わらない。

優しそうな表情は全く変わっていない。

「でも仲直りしたんでしょ？だったらいいじゃん。過去なんて引きずるためにある訳じゃないし。それにあの二人見てみなさいよ」

城崎さんの視線がある中学生のグループに変わる。
私と愛藍も城崎さんに吊られるように、その視線の先を確認すると中学生の女の子が二人いた。

二人の女の子の名前は山村小緑と大村瑠璃。
無邪気な中学一年生らしく笑顔で、城崎さんが作ってれた料理を取り合っていた。

その様子を親友の砂田と瑞季は呆れた表情で二人を見守っている。

そんな二人を例に、城崎さんは愛藍に語り出す。

「知ってる？愛藍くん。昨日までは金髪で長髪の瑠璃ちゃんが、隣の小緑ちゃんをいじめていたのよ。それも二年間も」

「二年間も・・・・すか？」

「そう。でもどうよ？あの二人、『いじめる側の人間』と『いじめられる側の人間』に見える？」

愛藍は再び二人の少女の姿を確認する。
そして悲しげな表情を私と城崎さんに見せると、愛藍は小さく呟いた。

「見えません」

「そう。だから、そう言うこと。仲直りしちゃったら何でもいいの。過去なんてもう関係ない」

城崎さんは書類に何か書き込むと話を続ける。

そして何度でも優しい笑顔を見せてくれる。