ルビコン

まあでも、最近のみんなは色々あったし仕方ないか。
樹々自身も忙しかったし、面接の結果なんて忘れていたのだろう。

樹々も『就職よりお母さんのことが心配』って言っていたし。

「えっと、来年から社会人になるので、頑張ります」

ぎこちない笑顔を浮かべて、頑張りを宣言した樹々に再び拍手の嵐。
そしてその拍手に包まれて、照れ臭そうな表情の樹々。

何だか可愛い。

でもその隣で、少し不気味な表情を浮かべている人がいた。
まるで何かイタズラを企む悪ガキのような表情・・・・。

「そうね。まだ進学か就職か迷ってる人もいるのにね。就活しなくていいのかな?」

なんでだろう。
城崎さんとから強烈な視線を感じる。

城崎さんは不気味な表情を浮かべて私を見ている。

そして私は理解した。
この人は私に恥をかかせるつもりだ。

「茜ちゃん!何か喋りたいなら前に来ていいよ。ピアノ教室の先生も来てくれているんでしょ?」

城崎さんのことに私は直ぐに否定する。

「うるさいです!絶対に嫌です」

こうなったらもういじめだ。
特定の人の名前を言うなんて酷い。

なにがなんでも絶対に前に出るもんか!

でももう名前を呼ばれただけで、私はダメージを受けている。
隣から『大大大嫌いな先生』の声が聞こえて来る。

「えー、茜ちゃんのスピーチ聞きたいのに。なあハル」

そして私が尊敬する先生の声も・・・・。

「うん。茜ちゃん昔と見間違えるほど変わったし」

私の隣にいる意地悪な栗原先生と春茶先生の声に、私は城崎さんと栗原先生への苛立ちを覚えた。
春茶先生のお願いなら多少は考えるけど、栗原先生のお願いは絶対に聞きたくない。

それに『見間違える』って春茶先生、目が見えていないのに何言ってるんだろう。
私の顔も知らないくせに・・・・。

城崎さんの視線が恐かったので、私は紗季の後ろに隠れた。
そうしたら城崎さんが諦めてくれるかと思ったから。

同時に私はため息を一つ吐く。
本当に、『私の回りには敵しかいない』って、最近何度も思わされる。

城崎さんも隠れる私を見て苦笑い。

そしてパーティが始まる。