「んじゃ乾杯しょう!でもその前に樹々ちゃんから一言」

「えっと、何を?」

何が何だか分からない表情を見せる樹々は首を傾げると、城崎さんに脛を蹴られた。

そして聞こえる樹々の悲鳴・・・・。

「痛った!なんで?」

その痛そうな表情を浮かべる樹々の姿を見て、春茶先生以外の参加者全員の表情が真っ青に変わった。

と言うか、なんで・・・・?
城崎さんは、理不尽な理由を短く答える。

「ムカついたから」

「ムカついた?そんな理由でですか?マジでこの人めちゃくちゃだよ」

樹々はため息を一つ吐くと、何かを思い出したみたい。
そして目の前の私達参加者達の顔を見て、樹々は覚悟を決めた。

「えっと、その・・・・。今更なんですけどあたし、松川樹々と姉の松川桔梗は、若槻東雲さんと若槻杏子さんの養子に入ることになりました。全然無縁だったあたし達に手を差し出してくれて、本当に感謝しています。お母さんもようやく目を覚まして、今日も一緒に祭りを回りましたし、本当に今が幸せすぎるって言うか、なんて言うか」

樹々はスピーチ中も何度か城崎さんの様子を伺っていた。
まるで『スピーチはこれくらいでいいよね?』って度も目で訴えるように。

明るそうな性格で人前で話すのが得意に見える樹々だけど、本当は違う。
本当は大人しい性格で控えめな女の子。

だか今のような人前も樹々は苦手なんだろう。
早くこの場から離れたいという気持ちが全面に現れている。

でも、そう簡単に城崎さんは見逃してはくれない。

「それともう一つあるでしょ?嬉しいこと」

「まあ、はい・・・・・。そうですね」

その時、私は樹々と目が合う。
一瞬『助けて』と訴えているようにも見えたけど、私は直ぐに彼女から目を逸らした。

というか私、樹々が今から何を話すか知らないし。
助けれることなんてないだろうし・・・・。

樹々は深呼吸を一つ吐く。
もう一度城崎さんを横目で確認したら、樹々は小さな口を開けた。

「えっと、また私事で恐縮なんですが実はあたし、就職先が決まりました。って言っても採用前提の面接なんですけど。とりあえずひと安心って言うか、何て言うか」

曖昧な樹々の最後の言葉に、『最後はちゃんと締めなさい!』って城崎さんに怒れていた。
でも参加者はみんな優しい人だからか拍手が上がる。

一方の私は驚いた。
だって知らなかったし。

面接は一ヶ月以上前。
遅くても一週間後には返事は来るものだし。

正直言って、面接結果の話が樹々から出てこないから、落ちたものだと思っていた。
それなら私と仲間で、内心は少しだけ嬉しかったのに・・・・・。

私の場合、『おめでとう』と言う言葉より先に舌打ちが出てしまった。

私、絶対性格悪い・・・・・。