「だったら、今から関係を作ろうよ。大切な親友の愛藍くんと関係を作り直せたたんだから、私とも関係作れるでしょ?『辛いときは誰かを頼る。それが当たり前なんだ』って関係を作ろうよ。それに、それを私に教えてくれたのは茜ちゃんなんだけどね」

・・・・・・。

「覚えている?初めて茜ちゃんと一緒に外出した日。私のいつものポーチ買った日。私がどれにするか迷っていたあの時」

その紗季の話は、正直言ってよく覚えていない。
初めて紗季と外出した事はよく覚えているけど、そのポーチを買った記憶は殆どない。

でも紗季は夏祭りの日や、城崎さんのカフェを手伝ったあの日も、私が選んだと思われる『紫色のポーチ』を紗季はぶら下げている。

まるで私と遊ぶ日は絶対にあのポーチと決めているように。

そのポーチに思い出があるのか、絶対にいつも離さない。

そして今日もいつもの紫色のポーチだ。
紗季は続ける。

「自分で決められなかった時、茜ちゃんが言ってくれたじゃん。『紗季は紫の方が似合う』って」

「だからなに?」

少しきつめの言葉を返したハズなのに、紗季の表情は晴れていた。

「私、スッゴい嬉しかったんだよ。自分ではピンクか青か決められなかったのに、茜ちゃんが私の殻を破ってくれた。茜ちゃんが選んでくれた。『自分で決めなくても、誰かに相談したらもっと選択肢や可能性が増える』ってことに。それを教えてくれたのは茜ちゃんだよ」

「意味分からない」

「茜ちゃんは意地っ張りだね。でも信頼関係ってそんな所から始まるんだよ。茜ちゃんに決めてもらったから、私は『信頼関係』って言葉を知った。茜ちゃんのお陰で私の人生が楽しくなった。茜ちゃんをもっと頼りたいと私は思った」

本当に何を言っているんだろうか紗季は。
私は本当に何もしていないのに。

「だから、茜ちゃんもっと私を頼ってほしいな。友達としてでも、クラスメイトとしてでも何でもいいから。もっと茜ちゃんの側に居たいな」

紗季は強く私の腕を握る手を引っ張ると、強制的に私を元の席に座らせる。
そして再びお姉ちゃんのような説教を始めた。

「人って不思議なんだよ。誰かと一緒にいたら、不思議と嫌なことや不安なことは消えていくんだよ。事実、茜ちゃんがこの高校生活で楽しく過ごせたのは、樹々ちゃんのお陰なんじゃないの?いつも樹々ちゃんが側にいてくれたから、茜ちゃんはこの高校生活を頑張ることができたんじゃないの?」

私はまた紗季から目を逸らす。
また意地を張るように違う言葉を考えたけど、もう何も出てこなかった。

「だから、これからも私と一緒に頑張ろ。茜ちゃんが辛いと思うなら、私も共有したい。茜ちゃんの力になりたいし、助けたい。親友なら、それが当たり前だと思うのが当たり前なんだから」

不思議だった。
紗季のその言葉を聞いていたら、私の吐き気と頭痛が消えていく。

まるでそれは私の『馬鹿な演技』のように思えた。

これが『紗季の力』なんだろか?
『親友の力』なんだろうか?