「おい茜!まじでお前、大丈夫か?」

愛藍の大きな声に、周囲の人は私に視線が集まる。
小緑のダンスが始まるのに、私に視線が集まってどうするんだ。

「大丈夫だよ愛藍くん、よくあることだから」

紗季はいつもと変わらない冷静な表情で、私を見つめて続ける。

「茜ちゃん。大丈夫だから。私が隣にいるから。ね?」

その紗季の優しい声は私には届かなかった。
まるで雑音のようなノイズにしか私は思えなかった。

それくらい今の私の精神はおかしくなっている。

隣の愛藍の不安げな表情はさらに深刻になる。

まるで世界の終わりのような絶望した表情だ。
いつも強がっていた愛藍も、こんな表情見せるんた。
一方の私は我慢の限界だった。

両手で口を押さえて、激しい吐き気と戦っていた。
気が緩んだら、この場で嘔吐しそうだ。

でも同じ症状を経験したカフェ会のように、一度一人になれば落ち着くだろう。

だったら今はここを離れよう。
紗季や愛藍にも迷惑だし。

それに、他の人にも迷惑だし・・・・。

・・・・・。

私は急いで立ち上がり、逃げるようにこの場を離れようとする。
一人になろうと慌てて席を立った。

でも、何故だか体が重い。
立ち上がってこの場を離れようとしたけど、体が鉛のように重たい。
まるで自分の体に鉛をつけられたような、そんな気分だ。

「逃げるの?また過去から?」

そしてその鉛の正体は、紗季だということに私は気がついた。
私が逃げられないように、その言葉と同時に紗季は私の腕を強く掴んでいる。

でも私は抵抗する・・・。

「離して紗季。私」

私は続けて『一人になりたい』って言おうとしたけど、紗季の言葉に書き消された。

「本当に茜ちゃんは口だけだね。愛藍と仲直り出来たのも、愛藍くんが茜ちゃんに会いに来てくれたからでしょ?自分は愛藍くんに何かしたの?仲直りしようと、自分で努力したの?」

紗季の言葉を理解しようとしたが、愛藍がフォローをしてくれた。

「なあ、山村。茜は別に悪くないし」

「悪いよ!ヘタレで口だけで、自分からは何もしない茜ちゃんが悪い!」

ヘタレで口だけ。

本当にその通りだ。
その通りだから、私は何も言い返さなかった。

紗季は続ける・・・・。