「白町カフェの店長、シロさんこと城崎さん。めちゃくちゃいい人なんだよ。そこの料理や飲み物も美味しいんだから!」

「へぇ」

「もっと興味もってよ」

「って言われても」

正直な所、全く興味がなかった。
そもそもコーヒーなんて苦くて飲んだことないし、カフェや喫茶店に行ったことすらない。

だから行って何をするのかすらわからない私には理解が出来ない。

「本当はお酒を交えてやったりしているんだけど、お酒じゃあたしら行けないでしょ?だからカフェって感じで、あたしら高校生でも参加しやすい環境を作ってくれたんだよ」

その樹々の説明に、私は疑問を抱いた。

「それって他に誰か来るの?」

「そう。あたし達のような高校生や、仕事終わりの人も来るし。いろんな人と喋れて楽しいよ!茜は有名なピアニストだしすぐに人気も出るし。あと願わくは就職先を紹介してくれたり!」

他に誰かが来ると聞いた私は躊躇った。

人と絡むのは苦手だ。

コンクールの後に出演者のパーティーにも参加したことがあるのだが、人見知りの激しい私はずっとピアノ講師の先生と一緒に過ごした。
絡んでくる人もいたが、結局何も言葉は返せなかった。

何より人が怖いのが今の私。
自分が知っている相手以外は、誰とも話したくないのが私の本音。

そう目の前の樹々にも理解してほしいのだが、樹々は強引な性格だ。
恐い顔で私を睨んでいる。

「茜って人見知りとかあるみたいだけど、どうせ人との絡み方がわからないんでしょ?だから誘ったの」

「でもさ、変な人も」

私の言葉を上書きするかのように、樹々は言葉を続ける。

「うるさい。とりあえず来るの。茜には今から社会勉強をしてもらうから」

恐い樹々の表情に、私は思わず目を逸らした。
私の心は小さく縮こまってしまう。

返す言葉ならいくらでもある。

だが何を言っても聞いてくれないのが松川樹々と言う女の子だ。
強引に腕を引っ張られて、私は言葉通り連れてかれる。

そんな樹々に抵抗はしてみたが、やがてそれは『なんの意味もない』と言う事に気が付いて、私はため息を吐いた。

というか理不尽。
行くとは確かに言ったけど、なんで過去の私は行くなんて言ったのだろうか。

過去の自分が憎い・・・・・・。