「茜?大丈夫か?」

いつの間にか吐き気を我慢するように口に手で押さえる私を見て、愛藍は心配してるような表情を浮かべている。

「大丈夫」

その弱々しい私の言葉の直後、音楽が止まった。
華麗なポーズを決めた彼らは、見事にこの曲を締めた。

会場からは今日一番の拍手に包まれた。

確か紗季は二曲あると言っていた。
また別の曲でこの会場を盛り上げてくれるのだろう。

だったらそれまでは私も頑張らないと。
小緑が頑張っているし。

またすぐに音楽が鳴り響くと思った。
また彼らは華麗なダンスを見せてくれるのだと思った。

でも、何故だか曲は始まらない。

直後、ジャージを着た女子大学生ぽい人が見事なダンスを見せてくれた黒と青の衣装の彼にマイクを渡す。
そして共に踊るチームメイトの前に立つと彼は深呼吸を一つ。
彼は会場の視線を独り占めにして、笑みをこぼす。

「えー、会場のみなさん。今日はお越しくださってありがとうございます」

その明るくてハキハキした声は、館内に響いた。ま
るで男性アイドルのスピーチのように、一部の場所から黄色い声援が飛んでいた。

本当に女子からモテそうな人だ。

彼は続ける。

「実は偶然にも今日の十一月二十六日。このスカイパイレーツは結成五年目を迎えました。初めはあまり聞いたことない音楽に付いていくことで精一杯の僕らでしたが、この前のダンス全国大会にも出場することが出来ました」

その彼の言葉の直後、会場は再び大きな拍手に包まれた。
私は相変わらず気分が悪くて拍手はしていないけど、隣の愛藍や紗季も彼に拍手を送っていた。

そして彼は苦笑い。

「あ、ありがとうございます。なので、今日の二曲目は僕ら『スカイパイレーツ』のデビュー曲、この町でピアノ教室を開いている『栗原律(クリハラ リツ)先生』が作ってくれた曲、『PDD』を披露したいと思います。私事ですが僕、江島葵が『スカイパイレーツ』の一員として、初めて踊った大好きなオリジナル曲です。では再び僕らの精一杯のダンスで楽しんでください!」

彼はマイクを返すと、チームメイトが待つ場所へ慌てて戻る。
そして彼が定位置に戻ると、再び舞台は暗闇に包まれた。

一方の私は目の前の少年が『江島葵』だと理解した時には、激しい吐き気と頭痛が私を襲っていた。

同時に目の前が真っ暗になった・・・・・。