「まあいいんじゃない?桜ちゃんが見た愛藍くんは偶々かもしれないし。思い込みは自分を苦しめるだけだし、それなら考えない方がいい方向に進むと思うよ」

「偶々じゃない!いつもそう。この前の野球終わりの打ち上げの時もそう。『茜と話せた』って、酔ったサラリーマンみたいだったし」

橙磨と桜さんの会話中、美空さんは私達の屋台のメニューブックを眺めていた。
その姿はまるで、『興味がない』と言っているみたいで少しだけ面白かった。

橙磨さんと桜さんの会話は続く・・・・。

「だから桜ちゃんは考えすぎ。それに相手の気持ちなんてわかるわけないよ。相手の気持ちが分かるなら、誰だって苦労はしないし。双子の僕だって、妹のアイツの事はさっぱりわからなかったし」

「桃ちゃんは特別。私も桃ちゃんが何考えているのか、全く分からなかった。あの子、『ノウミソ』のないアホだし」

「じゃあそれ、愛藍くんにも当てはまるんじゃないのかな?」

「そうだけど。いや、そうじゃないって言うか・・・・・。いや、そうなんだけど・・・・・」

二人の会話の内容が気になるが、美空さんは私にメニューの質問してくる。
『この粉チーズはイタリア産の?』とか、『今は時給いくらで働いているの?』とか、全く関係ないことを話してくる。

そういえばこの人、『他人に迷惑をかけない程度に自己中心的な思考の持ち主』なんだっけ・・・・・。
友達が恋で悩んでいるのに、美空さんは本当に他人に興味がないみたい。

・・・・・。

そういえばそれ、私の口癖だっけ。『他人に興味がない』って。
今では殆ど言わなくなったな。

まあ正直言って、自分がその言葉を使っていた記憶もないけど。
無意識の言葉なんだろうか?

その時、賑やかな声の中から足音が聞こえた。
『お客さんかな?』って思った私はすぐに気を張ったけど、私達の屋台の目の前に止まった人を見て私は驚いた。

「うっす。来たぜ茜」

大きな体格に、小麦色の肌。
右耳にはピアスを空けた、不良少年のような人物が私の名前を呼んでいた。

彼の名前は柴田アラン。
まだ高校生の若きピアニストで、来年には海外コンサートをすることが決まった私のイチオシピアニスト。

来月には自分の曲をまとめたアルバムをリリースするらしい。

・・・・・じゃなかった。

いや、間違ってはないんだけど。