ルビコン

午後一時。
お昼の時間になったら、人は溢れ返るように増えた。

最初は落ち着いていたこの辺りも、今は賑やかな人の声で騒がしい。

屋台の売れ行きも好調だった。
予め百食用意していたスープニョッキは全て売り切れて、城崎さんが新しいニョッキを茹でてくれた。

カフェ店内も常に満席で、東雲さんも不在だと言うのに、本当に城崎さんは凄い人なんだと思わされる。

忙しいけど楽しかった。
意識していた営業スマイルもいつの間にか自然と出来るようになった。

お客さんと話すのも、気がついた頃には自然と会話できるようになっていた。

そして何て言うか、人と触れ合うのが楽しいと思い始めた。
もっと誰かと話したいと思う自分がいる。

・・・・ってこんなことを葵に話したら笑われるだろうな。
昔から人との関わりを避けていた私なのに。

ピークを過ぎた私達は、屋台の中で一息ついていた。
城崎さんからの差し入れであるオレンジジュースが体に染み渡る。

ガスも使っているし、とにかく動き回っているからか額の汗が止まらない。
冬になりそうな冷たい気候だから、風邪を引かないようにだけ気を付けないと。

そんな私達に、見覚えのあるお客さんが来てくれる。

「あれー、橙磨くんじゃないの。こんな所でなにしてるの?」

私達が一息ついている中、目の前に背の高い女の人が現れた。
眼鏡をかけた大学生くらいの美人さん。

美人な女性は続けて橙磨さんをからかい出す。

「桃花ちゃんの医療費稼ぎ?優しいお兄ちゃんだね」

「うっさいな。今日は一人?」

「桜と一緒。はぐれたけど」

その時私は美人さんと目が合う。
そういえばこの人、どこかで見たことのあるような・・・・。

「あれ?あなた茜ちゃんじゃない?カフェ会で会った」

カフェ会と言われて、ふと樹々の表情が脳裏に浮かんだ。
同時に『私の人生はそこから再スタートしたんだった』と思い出す。

「美空さん、ですよね?」

確信はなかったが、思い出した名前を言ってみた。
樹々に誘われたカフェ会で出会った、元吹奏楽部の美空(ミソラ)さん。

苗字は私は知らない・・・・。

その名前が合っていたのか、美人さんは私に笑顔を見せてくれた。

「元気している?久しぶりね!何だか前より明るくなった?絶対に変わったよね?」

「えっ、そうですか?」

橙磨に助けを求めようと私は横目で見たが、橙磨さんは小さく何度も頷いていた。

って橙磨さん、なんか言ってよ・・・・。