「トマトソースとジェノベーゼソースを一つずつ下さい」

「は、はい。トマトソースとジェノベーゼソースですね。ありがとうございます!」

会計は橙磨さんがやってくれるみたいだ。
だから私が注文されたオーダーを仕上げる。

事前に容器にはニョッキが入れてあるから、後は熱々のソースを注ぐだけ。

思ったより簡単な作業に、スープニョッキはすぐに仕上がった。

橙磨さんが会計を済ませるのと同時に、スープニョッキの入った容器はお客さんの手元に渡った。

そして私は最後にお客さんに笑みを見せて提案する。

「スプーンはそこのを使ってください。それと、お好みで粉チーズも」

城崎さんがいつも見せてくれる営業スマイルを意識しながら、私はお客さんに笑顔を見せた。

そして聞こえて来るお客さんの声。

「めっちゃ美味しそうじゃない?ってか今の店員の二人、付き合っているのかな?」

「どうなんだろう。でもあの女の子って見たことあるかも。確かピアノで有名な子」

「えー誰?知らない」

背中を見せるお客さんの会話を聞きながら、私は小さなため息を一つ吐く。
簡単な作業だけど、初めの作業だからか凄く疲れたように感じる・・・・。

ダメだけど、帰りたい気分・・・。

「うんうん。茜ちゃんもいい感じね」

驚いた。
いつの間にか私の背後には笑顔の城崎さんが立っていた。

と言うか、気配なく私の背後に回るのはやめてほしい・・・・。

城崎さんは続ける。

「ニョッキ無くなりそうになったら教えてね。すぐに仕上がるから。橙磨くんも、茜ちゃんのフォローよろしくね」

「りょーかいっす」

それだけを言って城崎さんはまた店内に戻っていく。

いつもよりかなり早いが、カフェもオープンしていた。
ドリンクを作るカウンターには、私と同じ作業着を来た紗季が立っていた。

どうやら紗季は店内のドリンク場を任されたらしい。

ふと紗季と目があって、紗季は私に笑顔を見せてくれた。
『一緒に頑張ろう』って言われた気がする。

だったら私も頑張らないと。
一年に一度の舞台である屋台を任されたのならなおさら。

小さな深呼吸を一つ。
『やるぞ』と、青空の下で私は気合いを入れた。