「小緑、あんたもそろそろ集まらないとダメなんじゃないの?」
瑠璃の言葉に、小緑は『なんのこと?』って返すように首を傾げたが、直後に思い出したようだった。

「あ。やばっ、潤(ジュン)さんに殺される」

携帯電話で時間を確認した小緑は、急いでこの場を後にする。
珍しく少し表情を青く染めていた。
ダンススクールの先生は恐い人なんだろうか。

「じゃあ僕達も。また後で手伝いに来ます」

どこか行くところがあるのか、そう言った瑞季や瑠璃と砂田もこの場を去っていった。

その時瑠璃は私達に何度も頭を下げていた。
明るかった空気が、急に静かな空気に変わる。

・・・・・・。

「さてと、僕らも頑張ろうかな。今日は忙しくなるだろうし」

橙磨さんは仕事モードに入ったのか、首からかけていたオレンジ色のタオルをハチマキのように頭に巻いた。
何て言うか、この前の夏祭りのたこ焼き屋さんを思い出させてれる。

ふと後ろのカフェの中を覗いたら、城崎さんと紗季、そしてアルバイトの大学生が中で営業開始の準備をしていた。

今日は祭り仕様なのか、中央にテーブルを集めて立食形式の内装になっていた。
沢山人が来ても対応できるように。

そんなみんなの姿を見て私は思った。
『みんなも頑張っているんだし、私も頑張ろう』って。

愛藍も『来てくれる』って言ってたし、マヌケな姿を晒し出すわけには絶対にいかない。

今日は絶対に頑張る!

「すいません、ここって何屋さんですか?」

女子大学生と思われる女の子二人組が私達のいる屋台の前で立ち止まる。
興味があるようでメニューブックを見ていた。

そんな目の前の二人に橙磨さんは嬉しそうにお客さんに説明しようとしたが、踏みとどまる。
そして『出番だよ』と言わんばかりに、私の方を見ていた。

どうやら私がお客さんに説明しなきゃいけないらしい・・・・。

「えっと、スープニョッキを売っている店です!絶対に美味しいですよ!」

慌てて組み立てた言葉だけど、お客さんは興味を持ってくれたみたい。
『何しようかな』なんて言ってくれるし。

ちなみにスープニョッキのスープは三種類。
トマトソースとクリームソース、そしてバジルを使ったジェノベーゼソース。

どれも城崎さんのオリジナルスープだ。
値段もワンコインと、赤字ギリギリの値段らしい・・・・。

お客さんはメニューブックに指を指して、注文してくれる。