「あの・・・・・この前ここで働いていた人ですよね?」

瑠璃の言葉に、樹々の表情が一瞬強ばった。
そういえばみんなが小緑と瑠璃の関係を知る前に、瑠璃は樹々に酷いことを言っていたんだった。

でも樹々はすぐに笑顔を見せて答える。

「うん。そうだよ!」

「えっと、その・・・・あの時は本当にごめんなさい。酷いことを言ってしまって。それと瑞季にも酷いことをしてしまったし・・・。本当にごめんなさい!」

そう言って樹々に頭を下げる瑠璃の姿に私は驚いた。

だって、一ヶ月前の少女とは同じには見えなかったから。
樹々に酷い言葉を言った女の子にはとても見えなかったから。

そしてそれは樹々も同じ。
一瞬だけ驚いた表情を見せていたけど、すぐに優しいお姉ちゃんの表情に変わった。

「気にしてないからいいよ。それにこっちゃんや瑞季と仲良くしているなら、あたしは何とも思わないよ。これからも二人と仲良くしてね」

瑠璃は顔を上げる。
そして笑う。

「はい、ありがとうございます!」

その二人のやり取りを見て、『樹々が誰かに怒った姿を見たことがないな』って私は思った。
自分は過去に酷いことをされて生きてきたのに。

でもきっと、樹々も私の親友の山村紗季(ヤマムラ サキ)と同じで、本当に心の底から優しい素直な女の子なんだろう。

そして周囲にいる人を自然と笑顔にさせてくれる凄い女の子。

私は樹々に何度も助けられた。
何度も樹々のお陰で笑うことが出来た。

ずっと一人だった私の殻を破ってくれたあのみたいに、瑠璃もいつの間にか嬉しそうに笑顔になっていた。
とても可愛らしい子供の笑顔。

「あー、そうだった。あたし、ちょっと出掛けないと」

突然何かを思い出したかのように樹々は自分のリュックを背負うと、私達に再び笑顔を見せた。

そして何処かへ向かおうとする。

「茜、頑張ってねー!あたしもまた後から来るから!橙磨さんも茜のことよろしくね」

大きく手を振る樹々に、私は小さく手を振り返した。
そして樹々は最後に今日一番の笑顔を見せると、カフェ内から出てきた東雲さんと一緒にこの場を去っていった。

きっとお母さんの元へ行ったんだろう。
『杏子さんが目を覚ました』って言っていたし。

リハビリも順調で、『もうすぐ退院出来る』って心の底から喜んでいた。

私も早く会いたいな、杏子さんに。
本当に不思議な人だったし。

力を貰えたし。