「携帯いじるなんて余裕だね、茜ちゃんは。彼氏?」

その橙磨さんのふざけた言葉に、私は一発殴りたいと思った。

でも拳を作る手の力を抜く。
ここは我慢。

ここで怒っていたら、今日という日を乗り越えれないと思ったから。

「愛藍です。今日来てくれるみたいです」

「あー愛藍くんね。もう仲直りしたんだ」

携帯電話を触る私の手が止まった。
こんなやり取りをしているから『仲直りはしたんだ』と思うけど、何故だかその言葉が引っ掛かる。

「たぶん・・・・・」

「愛藍くん、いい奴だね。最後の最後まで仲間のことを考えていてさ。きっと今までずっと茜ちゃんのこともずっと考えていたんだろうね」

「そう、かな?」

「茜ちゃんが過去を引きずるように、愛藍くんも過去を引きずっている。君が愛藍くんのことを思うように、愛藍くんも茜ちゃんのことを想ってくれたはず。これって両想いってやつ?」

両想いか。
愛藍がそうなら、葵もそうなのだろうか。

私は無意識に橙磨さんから目を逸らした。
メールの返事を再び考えようとしたが、目の前に誰かが来たみたいだ。

「やあこっちゃんに瑞季くん。それと瑠璃ちゃんと砂田くんだっけ?どう?祭りの景気付けに食べてかない?」

橙磨さんの言葉に私は顔を上げる。
するとそこには見慣れない四人組が屋台の前に立っていた。
短い茶髪の不良少女のような山村小緑(ヤマムラ コノリ)と、長い金髪を揺らす同じく不良少女にも見える大村瑠璃(オオムラ ルリ)。

それと樹々の弟で女の子みたいな可愛らしい顔の若槻瑞季(ワカツキ ミズキ)。
それとあまり表情を見せない大柄の少年の砂田恵介(スナダ ケイスケ)。

小緑が答える。

「僕は今から本番なんでいいです。食べると吐くし。瑠璃は食べていったら?」

「まだいらない。お腹すいていないし」

無愛想な言葉の二人の姿に、一瞬私の心は不安に襲われた。

だってこの二人、最悪の関係だったし・・・・・。

けど小緑と瑠璃の晴れた表情を見ていたら、その不安は完全に浄化していた。
どうやら二人の間には友人関係が戻ったみたい。

「そっか、みんな仲直りしたんだね!瑞季にも友達が出来たみたいだし、あたしも安心した」

瑞季のお姉ちゃんである樹々の言葉に、瑞季は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染まっていた。
その表情が結構可愛いって言うか、本当の女の子みたいっていうか・・・・。

一方で、瑠璃は申し訳ない表情を樹々に見せる。