午前十時、毎年開催されるこの町の秋祭り『赤崎祭』が開催された。
この前の夏祭りのように、街にはカラフルな屋根や看板の屋台が沢山並んでいる。

祭りが開催されたばかりでまだ歩いている人は少ないけど、これからどんどん人が増えてくるだろう。

私は打ち合わせ通り、本当に屋台を任せられた。
屋台の場所は白町カフェの目の前に設置されて、後ろを振り返ればいつもお馴染みのカフェの店内が一望出きる。

店内には城崎さんの姿が見えるから、城崎さんがいる店内から外を見ると、怯えた表情を浮かべる私が見えるのだろう。

これなら少し安心かも。

私は一人で屋台を営業するのかと思ったけど、どうやら違うみたい。
私の隣には茶髪の不良少年にも見える男の子がいる。

私の親友である川島橙磨さんも、屋台の店番を任せられたみたいだ。
私達の服装もこの前カフェを手伝った時に着ていた白のワイシャツで、腰には黒のサロンを巻いている。

屋台と共にカフェも営業するみたいで、私達と同じ格好をした城崎さんは店内から私達の様子を見守ってくれた。

私は緊張して口から心臓が飛び出そうなほど震えているけど、橙磨さんが優しい言葉をかけてくれる。本当にいつも思うけど心強い。

橙磨さんの妹も、『いつもお兄ちゃんに励まされていたのだろうか』と私はふとそんなことを思った。

そういえば私、橙磨さんの妹の川島桃花(カワシマ モモカ)さんの事、あまり知らないままだし・・・・。

そしてその屋台の中で、不満げな表情を浮かべている茶髪の女の子が私の目の前にいた。

「なんでメニュー変わってるのさ」

若槻樹々は恐い目付きで小さなメニューブックを睨んでいた。納得出来ないような、少し怒った表情で。

その樹々の不満に、橙磨さんが答える。

「だってパンケーキバーガー、思ったよりコスト高かったし。オーダー通ってからの工程も多いし。忙しくなったらパンクするし」

橙磨さんの言葉に、納得の出来ない樹々は声を張った。

「でもみんな賛成してくれたじゃん!」

「シロさんや東雲さんが作るなら出来るかもしれないけど、作るの茜ちゃんだし。無理でしょ?物理的に」

「うーん、確かに無理だね。あたし同様に茜はまだ料理下手っぴだし」

「でしょ?」

いや、本人の目の前で否定する言葉を言わないでほしい。
実際にそうなんだけど、傷付くっていうか・・・・。

そんな私を無視して、橙磨さんは続ける・・・。