「だから、何事もプラスのイメージで物事を前向きに考えないと。『短所』より『長所』をね。例えば目の前の美味しいサンドウィッチ。『もう一つしかない』って思うより、『まだもう一個残っているんだ』って考えた方が得した気分にならない?何事もいいイメージを持たないと、人生も楽しくないわよ。自分のことなら、なおさらね。だから前向きに物事を考えるようには、自分の『長所』をもっと知らないと。自分で長所を答えられるようになるには、もっと自分のことを知る必要がある。最近の茜ちゃんは色んなことを経験しているから、色んな自分が見えたんじゃないかな?それだけでかなり成長したと思うけど。だから、今の茜ちゃんは葵くんと会っても大丈夫だと思うよ。『葵くんと会ったら吐き気がする』ってそうじゃなくて、『葵くんと会ったら少しだけでも話してみよう』って考えたら吐き気もなくなると思うし。内側も変わると思うけどね」

こう言うことをなんの躊躇いなく、堂々と笑顔で言う城崎さんが凄いと思った。

私は絶対に言えないし。

そして城崎さんは凄く前向きな人なんだと改めて思い知らされた。
姉であり、樹々のお母さんである杏子さんが倒れたのに、涙を見せずに全力でお客さんに笑顔を見せている。

そんなの、普通の人じゃ出来ない。

・・・・・・。

だったら、私も城崎さんのような大人になりたい。
時間は掛かると思うけど、城崎さんを意識することで絶対に人は変われると思うし。

もっともっと、自分に自信を持とう。
自分の『短所』より『長所』を主張する。

前向きに物事を考える。
マイナスのイメージは今後一切捨てる。

難しそうだけど、難しく考えるから難しいんだ。
簡単だと思ったら、思ったより簡単なのかもしれない。

私も城崎さんのような大人になれるかもしれない。

何だろう。
そんなことを考えていたら、少しだけ勇気が出てきた。

これなら私でも出来そうだ。
頑張れる気がする。

そして知らない内に、私の表情は笑顔に変わっていた。

今この瞬間、『新しい桑原茜』が誕生したのかもしれない・・・。
一方で立ち上がって自分のカップを片付ける城崎さんは、ボサボサの私の髪を触る。

「さっ、残りのサンドウィッチ食べちゃって。私は少し仕込みしてくるから。あとみんなが来るまでにその寝癖直しなさいよ」

「あ・・・・」

私は気がついた。

『まだ顔を洗っていなかった』ってことに。
『寝癖も直してない』ってことに。

歯も磨いてない・・・・。

もうすぐしたら、樹々や橙磨さん達が準備にやって来る。
それまでに早くこの姿を何とかしないと笑われる。

・・・・・・・。

じゃなくて、みんなが来る前までに容姿も完璧にして、少しでも準備を進めておこう。

そうしたら『気合い入っているね』とか『また茜は変わったね』とか言ってくれるかもしれない。

何より『変わったね』って言われるのが、最近凄く嬉しいんだ。