時刻は午前六時。
まだ日の出の光は街を照らせていないというのに、私『桑原茜(クワハラ アカネ)』は城崎さんに呼び出された。

いつもお馴染みのカフェで、城崎美憂(シロサキ ミユウ)さんは腕を組んで私を睨み付けていた。
城崎さんは寝ていないのか、目の下には隈が目立った。

いつ見てもタフな人だ。

「遅いよ茜ちゃん。集合時間は必ず守る。これは大人としての当たり前の行動だよ」

「すいません。寝坊しました」

私の言葉通り、起きたのはついさっき。
寝癖も直してないし、顔も洗っていないし、何も食べていない。

起きて着替えて、走ってここまで来た。

「まあいいけど。まだ準備はしないし。ただ茜ちゃんと一緒に朝食でも食べながらお話しようなって、だからみんなより早く呼んだの」

その言葉を聞いた私は、まだ少し寝ぼけている目を擦りながら今日がなんの日か思い出した。

今日は待ちに待ったこの街の秋祭り、『赤崎祭』の日だ。

城崎さんのカフェ、『白町カフェ』が出す屋台を任せられた私は、この日のためにずっと料理の練習をしてきた。

私の親友の若槻樹々(ワカツキ キキ)のお父さんである東雲(シノノメ)さんや城崎さん、そして樹々と同じく親友の川島橙磨(カワシマ トウマ)さんに『料理とはなんなのか』とか、色々な知識や技術を叩き込まれた。

だからと言って『城崎さん達のようなプロの料理が作れるのか』って聞かれたら、私はすぐに首を横に振る。
またそれは別の話。

相変わらず下手なままだけど、少しは上手になったはず。

この前のとある日、兄と父に晩御飯を作ったら、残さずに全部食べてくれた。
前までは兄は私の料理をこっそりゴミ箱に捨てていたのに・・・・。

同時に前より少しだけ自信が沸いてきた。

『私のような何も出来ないような奴だけと、目標に向かって頑張ったら結果は付いてくる』って気が付いた。

不思議と勇気と自信が出てきた。

だから今日は頑張らないと。
でも相変わらず就職活動なんてしていないから、今は学校の先生に会いたくない。

怒られるし・・・・。