「まあ、正解だな。『いじめを止める方法なんてない』と俺は言ったけど、『ない』って言い切ったら本当にない。助けることなんて出来ない」

「意味がわかりません」

「難しく考えなくていい。いじめを止める方法がないなら、作ればいいだけの話だ。最悪、どんな手段を使ってでも」

その時、また烏羽の影が動いた気がした。
まるでそこに不気味な黒い烏が何羽もいるように思えて、僕は息を飲む。

烏羽先生は続ける・・・・・。

「悪の話、覚えているか?『悪を倒すのは、正真正銘の悪』だって話」

「一応」

それは僕が初めてダンススクールに言った日のこと。
その帰り道に、僕は烏羽先生に『悪とは何なのか』と講義を受けた。

講義の内容としては、『悪を止める方法は、悪が犯した以上の悪を見せつけること』・・・・らしい。
『恐怖』という言葉を悪にねじ込ませること。

確かそんなことを烏羽先生が言ってきた気がする。

「それと一緒だよ。山村をいじめていた大村が悪だとしたら、その悪を退治したらいいだけ。それにほら、いじめって言葉は『正義の言葉』だけでは治まらないだろ?『いじめはよくない』とか、『もうそいつを逮捕してしまえ』とか、外野は『ああだこうだ』言うけど、そんなことを言っても絶対にいじめは無くならない。正義の言葉を並べても、いじめという悪を犯す悪には絶対に聞かない。と言うか、口だけではいじめは解決しない。行動をしないといじめは絶対に無くならない」

「それが瑠璃をいじめた動機ですか?瑠璃が悪者だから、烏羽先生は瑠璃以上の悪者になって、瑠璃を懲らしめたってことですか?瑠璃に『いじめ』という恐怖をねじ込ませたのですか?」

僕の言葉に、烏羽先生小さく頷くと続ける。

「ああそうだ。お前が幸せになれるなら、俺は『悪』にだってなってやるよ。喜んで引き受けてやる。だから、もっと俺を妬んでくれ」

「って言われても」

と言うか、なんで烏羽先生がここまで僕の事を想ってくれるんだろう。
『自分がいじめの経験があるから』という理由じゃ、もう納得できないよ・・・・・。

意味がわからない。

けど・・・・・。

「お前は正義のヒーローみたいな奴だ。正義感も強いし、どんな悪にも怯まずに立ち向かう。だから、それでいい。お前は自分の中の正義を貫き通したら、それでいい。そんなお前を俺は心の底から応援している。いつかは悪の俺と戦う正義のヒーローになって欲しい。って、なんてな」

その言葉に、僕は否定した。

だって昔は僕も悪だったし。

何より今がそうだし。

「僕も悪です。結局、みんなに迷惑しかかけられないし」

「そんなの当たり前だろ。だってまだ中一なんだし」

「え?」

僕は目を丸めると、烏羽先生は僕の頭を撫でてくれた。
優しく、『なんでそんな馬鹿みたいなことで悩んでいるだ?』と言っているような、娘を想うお父さんのような笑顔。
「山村は考えすぎ。中一なら中一らしく、友達と遊ぶことだけを考えていればいいんだよ。好きなことにもっと挑戦して、『将来はどんなことして生きようか』と、胸を膨らませて生きていればいいんだ」

烏羽先生は自分のハンカチを取り出す。
そしていつの間にか情けなく涙を流す僕の涙を拭き取ると続ける・・・・。

・・・・・・・。