瑠璃が悪い方に変わっていくのが嫌だった。
僕のせいで瑞季がいじめられて苦しかった。

麦との記憶も、僕を苦しめるだけの凶器にしか過ぎなかった。

何より、自分が一番嫌だった。

僕は僕自身が大嫌いだった。
山村小緑という『バッドエンド』しかないキャラクターを操作するくらいなら、いっそのこと自滅して『ゲームオーバー』になりたかった。

違う人生で『コンテニュー』をしたかったと僕は思う。

そしてそれは『瑠璃も僕と同じことを考えていたのだろう』と最近思うようになった。

いじめの加害者だけど、『瑠璃も生きるのが辛いのじゃないかな?』って僕はようやく彼女の心の声に気が付いた。

親の虐待で人生を悩ませて、精神も破壊されて・・・・・。

親友だった僕との関係を忘れるほど瑠璃は自分を見失い、瑠璃は僕を追い込んだ。

今の瑠璃は『それが正しい』と思っての行動かもしれないけど、結果的に瑠璃は幸せになってはいない。
自分の首を絞めているようなもの。

自分の骨を折るように身を削っても、なんの意味もない。
それにもし僕が瑠璃の立場だったら、僕は耐えられないと思う。
投げ出したくなる。

同時に『なんでこんな残酷な選択をしたんだ』って自分を嫌いになりそうだった。

何より産んで育ててくれた親に虐待されていたら、『自分はどうして生きているんだろう』って思うはず。

実際に僕もそうだったし。

そんなことを考えていたら、烏羽先生の言葉が聞こえてくる・・。

「大村、この文字を見てどう思った?素直に思ったことを言ってくれればいい。俺は絶対に怒らないから」

烏羽先生の表情は明るかった。
まるで優しいお父さんのように、『何でも話してくれてもいい』と瑠璃に優しく問いかけるように・・・・。

一方の瑠璃は真面目な表情で、僕の方を何度も見ながら何かを考えていた。
僕と目が合ってはすぐに逸らす。

ちょっとだけ面白かったと同時に、『瑠璃も真剣に考えているんだ』って僕は思った。

こんなときに僕の顔を伺う理由なんて一つしかないし。
まるで親友に助けを求めるみたいだし。

そして瑠璃は答える。

「小緑がこんな気持ちなんだって、よくわかった」

「そうか。だったら、百歩は前進したな」

申し訳なさそうな瑠璃の表情を見た烏羽先生は僕達に笑顔を見せる。
そして黒板の文字を消した。

しっかり後が残らないように。

丁寧に。