「山村、いじめを止める方法を言ってみろ」

「止める方法って言われても」

そんなの言われても分からなかった。
だってそれが分かっていたら、僕は二年間もいじめられていないし。

だから僕は何も答えられなかった。
何が正解かも分からないし。

僕はずっと黙っていたら、烏羽先生は大きなため息を一つ吐いた。
それはまるで魔法の呪文のように。

何かの糸をほどくように。

烏羽先生が吐くため息は、いつも僕を不安にさせる。

「いじめを止める方法に、正解なんてないよ。いじめについて何十年も様々な口論をしているが、効率のいい解決策なんて未だに解明されていないない。でも現段階で一番効率のいい解決策はやっぱり、いじめられている相手に『止めて』と言えるかどうか。でもそれはいじめられている人の性格にもよるから、正直言って難しい。それといじめを止める方法はもう一つ。クラスメイトがいじめられている生徒を守る事だ。それが出来たら状況は大きく変わるかもしれないが、まずそこまで状況が進まない」

烏羽先生は一つ間を置くと続けた。

「お前だって知ってるだろ山村?お前がいじめられたあの時、クラスのみんなは『いじめられている人を助けようとすると、今度は自分がいじめられる』と思っていた。だから誰もいじめられている山村に声を掛けなかった。一方の若槻は山村を助けようとして、お前に手を差し出したよな?だけど現実はクラスメイトが思った通り、若槻は大村から酷いいじめを受けた。今度は自分がいじめられた。『いじめられている人を助けることが、自分にとっては馬鹿らしい』と証明されてしまった」

先生の言葉に間違いはない。
でもそれを納得したらダメと言うか、『卑怯者』っていうか・・・・。

「そう、ですけど・・・・」

やっぱり、『みんなは自分が一番かわいいから、どんな状況になっても見て見ぬフリをするだろ』って僕はそう思ってしまった。

それに『自分には関係ないもん』って思う人もいるんだろうな。
実際にそうかもしれないけど、『それが当たり前でいいのか』って僕はいつも思う。

その時、教室に瑠璃が入ってきた。
昨日の一件からまた彼女は謹慎になったみたいだ。

謹慎になると、いつもより早く登校させられる。

その瑠璃はいつもの強気な表情ではなく、誰かに怯えたような表情。
赤黒く染まった右腕を気にしているし、その様子じゃ昨日も親に虐待を受けたんだろう。

まるで『人が怖い』と言っているような、気弱にも見える金髪の瑠璃の姿が僕の目に焼き付いた。

・・・・・。

何より目の前に自分の悪口がまた書かれているんだ。
正常な気持ちになれる方がおかしい。